ドコサヘキサエン酸(DHA)は海産魚の必須脂肪酸であり、養魚飼料にはDHAを含む魚油を添加する必要がある。申請者は、各種カレイ・ヒラメ類が保持する脂肪酸不飽和化 酵素(FADS)のcDNAを網羅的に解析し、熱帯域に生息する小型シタビラメ類が、ALAからDHAを合成する際に必須な3か所全てに二重結合を導入可能な三機能性の FADSを持つことを発見した。本研究では、大型で美味な日本産の食用シタビラメ類と熱帯産種を交雑することで、食用種の特徴を具備しDHAも合成可能な新たな 品種を作出することを目指している。雑種化により両種由来の脂肪酸代謝酵素が補完しあうことで、得られた次世代個体はALAからDHAを効率的に生産し、植物油 で飼育可能になると期待される。 昨年度は東南アジア産の淡水型ササウシノシタであるBrachirus villosusを中心に解析を進めたが、今年度はこれに加え、同じく東南アジア産のB.harmandi およびB.panoidesさらにはボルネオ産のAchiroides melanorhynchusの脂肪酸代謝酵素の解析を進めた。これらはいずれも三機能性と予想されるアミノ酸配列を保持していた。B.harmandiのfads2については組換え体を作成し、機能解析を行った結果、予想通り三機能性を保持していることが確認された。 一方、雑種作成実験に関しては昨年度の結果を踏まえ、B. villosusを中心に実験を進めた。淡水産種の精子を海水中で活性化されることが肝要であるとの考えのもと、海水希釈前に様々な精子の賦活化処理を施した。その中でもKClとMgCl2を多く含有するクロダイ用の人工精漿(pH8.2)を用いることで、わずかながら精子の活性化が可能であることが明らかとなった。
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