研究課題/領域番号 |
19K22333
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河本 晴雄 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (80224864)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | バイオマス / セルロース / リファイナリー / オンサイト触媒 / 熱分解反応制御 |
研究実績の概要 |
化石資源に頼らない持続可能な社会を実現するためには、地球上で唯一の再生可能な炭素資源であるバイオマスから材料・ケミカルスを製造する技術を今から確立しておくことは極めて重要である。本研究課題では、バイオマスの構成成分と結合した際にのみ触媒機能を発揮するオンサイト触媒を新規に提案することで、超高選択的に、セルロース系バイオマスを種々の低分子ケミカルスへと変換する技術に挑戦する。アルコールや水と反応することで酸の構造を生成可能なスルホラン中で、通常の熱分解の進行する350℃よりも低温度域で、ヘミセルロースとリグニン由来物をスルホラン可溶部として分離でき、純度の高いセルロースが残渣として回収できることが昨年度の研究で明らかになっている。今年度は、分解物中のリグニンの化学構造について検討し、エーテル構造が開裂することで、リグニンの低分子化が進行する一方、縮合型構造は低分子化に寄与していないことなどを明らかにした。また、得られるセルロース画分の利用に関連して、赤外線照射による急速熱分解の特性化を行い、無水糖を経由した糖化の可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の実施において、オンサイト触媒としての作用が期待できるスルホランに着目して、木材の熱分解によるバイオリファイナリーについて研究を進めている。その結果、通常の熱分解温度よりも低い温度域で純度の高いセルロースとヘミセルロース+リグニンの2画分へと分離できることが判明している。本年度は、スルホラン中での木材の熱分解機構の解明に向けて、リグニン由来物の化学構造をHSQC二次元NMRやGC/MSなどを用いて検討することで、リグニンの低分子化機構についての解明を進めた。その結果、縮合型構造は変わらず安定であるが、エーテル構造の開裂反応がより低温度域で進行していることが示唆された。本結果は、スルホランの具体的な作用機構を解明する上で重要な知見である。一方、セルロース画分については、その利用の方向を考え、赤外線照射による急速熱分解による無水糖(レボグルコサン)生産について検討した。その結果、赤外線照射は試料サイズの大きなセルロースを用いても急速熱分解条件を容易に維持できること、その結果収率よく無水糖を与えることなどを明らかにした。本結果は、スルホラン処理に続く急速熱分解により熱分解ベースの木材糖化手法の可能性を提示するものである。このように、研究は順調に進展していっている。
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今後の研究の推進方策 |
スルホラン中での熱分解により得られたリグニン及びヘミセルロース由来物のキャラクタリゼーションをさらに進めるとともに、モデル化合物、理論計算なども効果的に用いながら、スルホラン中での木材及びその構成成分の熱分解分子機構を明らかにしていく。また、残渣として得られる純度の高いセルロースの利用方法についても、引き続き急速熱分解による無水糖生産などの観点から検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に次年度使用額として70万円が生じた理由は、コロナウイルスの感染リスクによる影響で物品購入などの時期が後ろ倒しになったことなどが主な理由である。この70万円については、令和3年度の物品(高速カメラ)の購入などに効果的に利用する計画である。
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