研究課題/領域番号 |
19K22335
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上谷 幸治郎 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (20733306)
|
研究分担者 |
鈴木 望 名古屋大学, 工学研究科, 特任助教 (00779845)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
|
キーワード | ミクロフィブリル / 捻れ / キラリティ / 力学特性 |
研究実績の概要 |
本研究では、固有の右巻き捻れを有するセルロースナノファイバーの力学特性を解明することを目的としている。まず有限要素シミュレーションを用い、所定の六角形断面と捻れを持つナノファイバーを模した捻れ六角棒モデルを作製し、弾性パラメータ、境界条件ならびにメッシュ構造を設定することで力学計算を実施した。捻れ六角棒モデルの捻れ軸方向に荷重を印加した所、荷重方向と異なる方向へ湾曲する変位と、断面の回転変位が同時に観測された。この結果は、入力された荷重方向とは異なる方位に荷重を伝達する性能の発現を示唆している。捻れの回数によって変位挙動が不連続かつ離散的に変化したことから、この捻れた棒は非線形的な力学的特質を有していると考えられる。そこで、この非線形的な力学特性を実験的に実証することを目指した。ナノファイバー試料として走査型電子顕微鏡観察により右巻きの捻れが確認されたバクテリアセルロースを一軸配向させたフィルムを用い、配向軸に対して様々な角度で切り出した切片を用いてオフアクシス力学試験を実施した。この時、荷重前後のフィルムの複屈折分布を測定することで、分子レベルの歪みを光弾性係数により観測した。その結果、フィルムの配向軸方向では正の、直交方向には負の光弾性が観測された。さらに、配向軸方向から少し斜めの方位で最大の光弾性係数が観測された。この傾向は、同じ一軸配向構造を持つがナノファイバー構造を持たないセロファン膜では観測されなかったことから、捻れたナノファイバー集積材料に固有の力学応答であることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、初年度は有限要素シミュレーションにより傾向を予測し、さらに実験的な手法によって捻れたナノファイバーの非線形的な力学特性の一端を明らかにすることができた。計算科学においては、分子レベルのシミュレーションでは難しい巨視的なスケールを有限要素法により解明した。実験的には、巨視的な引張試験では困難な分子レベルの歪みを光学的に解析し、光弾性係数というユニークな切り口で変位挙動を追跡することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
現状では、シミュレーション上ではナノファイバー1本について、また実験的にはナノファイバー集積フィルムでの結果を相対させているため、今後シミュレーションと実験のより精密な連携を進めてゆく。また、捻じれ構造による非線形的な力学特性をより具体的に実証するため、さらにバリエーションに富む力学試験を行う。さらに、複雑な細胞壁など各種生体構造における力学に発展させるため、シミュレーションならびに実験手法の洗練を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
有限要素シミュレーションをMatlabと連携して制御するためのアルゴリズム開発を次年度に計画しており、そのための費用として前年度の物品費を充当することとしたため。
|