研究課題/領域番号 |
19K22344
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中嶋 康博 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (50202213)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | 食選択 / 外部化 / 簡便化 / 食の価値 / WEB調査 / 新型コロナウイルス |
研究実績の概要 |
2019年度、2020年度に実施した3回のWEB調査(2020年1月、2020年11月、2021年3月)を精査してさらなる分析を行い、以下のことを明らかにした。 1)調査対象者は価格重視・安全性重視・多様な価値を評価という大きく3つのグループに分けることができる、2)新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生後に価格重視グループが減少した、3)代わりに増加したのは安全性重視グループであった、そして4)それぞれのグループ内においても安全性や価格といった最重要視される項目のシェアが低いクラスターの人数比が増加する傾向にあり、極端に特定の価値を重視する傾向が弱まっていた。 年齢・所得階層ごとのクラスター構成比を見ると、若年層ほど価格重視グループの比率が高かったが若年層ほど大きく減少することにより年齢階層差が小さくなっている。代わりに増加したのは安全性重視グループであるが、その中でも安全性を重視しながらもそれ以外の価値のシェアも比較的大きいクラスターが増加しており、比較的幅広い価値を評価する傾向が読み取れる。20代においては多様な価値を重視するグループも増加しており、その傾向はより顕著である。一方で所得階層に関しては比較的低所得な階層ほど価格重視グループが多い傾向があったが、所得階層間でのクラスター構成比の差は小さくなる傾向が見られた。 これらの変化の背景には外食機会の減少と食品購買機会の増加に伴う購買する食品の多様な価値を評価する機会が増加したこと、疾病の性質上健康に対する関心が向上したことなどが考えられるが、経済的な悪影響が想定される中でも価格重視にシフトする傾向が見られないことは注目に値する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来は2021年度にアフターコロナ状況下における食選択の二元論的行動についてWEB調査を行う予定であったが、感染状況は改善しないことが予想されたためにその課題は断念することとして、食選択の二元論モデルをベースにしながら風評被害の分析を目的として、放射能汚染などの食品安全への懸念が起きているのは、「生きるための食」(A食)なのか、「楽しむための食」(B食)なのかを明らかにするともに、そのような意識を引き起こす社会心理的背景を検討するためのWEB調査を行う予定であった。 しかしながら年度の前半は感染状況が悪化し、年度の半ばには大きく改善したが、年末から年始にかけて再び悪化していった。このような状況の下で人々の意見は安定したものとはならないことが想定されたので、この時点でWEB調査を実施することは断念して次年度に延期することとした。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の感染状況を見極めながら、アフターコロナの食行動もしくはウィズコロナの食行動の分析を行う。これまでの2年超の経験を踏まえて、消費者がコロナ禍への適応態度が形成されたという仮説の下、不確実下の意識と行動を観察したい。分析の手がかりとして食行動が風評被害の面で態度に変容があったかを取り上げる予定である。放射能汚染などの食品安全への懸念が起きているのは、「生きるための食」(A食)なのか、「楽しむための食」(B食)なのかを明らかにするとともに、そのような意識を引き起こす社会心理的背景を検討する。この分析を通じて、食選択の二元論モデルの有効性を検証するとともに、今後の研究の展開について総括することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度中に再度WEB調査を行う予定であったが、年度内で感染状況があまりにも大きく変動したことから、消費者の意識を正確に把握できないと判断し、調査を断念せざるを得なかった。そこで最終的な結論を得るためのWEB調査は延期し、2022年度にはアフターコロナなのかウィズコロナなのかを見極めた上でWEB調査を行う計画である。
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