研究課題
福島の森林林床に集積した放射性セシウム(Cs)の残存状況を把握し、今後の推移を予測する手法を確立するため、最終年度である今年度はおもに餌資源を生食連鎖に依存する植食性昆虫への放射性セシウムの移行を評価するとともに、コバネイナゴを放射性セシウム汚染の指標生物にもちいることの有効性について検証した。その結果、土壌-植物間の移行係数(TF)は、0.0064と昨年度とほぼ同等の値をしめした。このことは土壌-植物間のセシウム137(Cs-137)の移行がすでに定常状態にあることを示唆している。いっぽう植物-イナゴ間のTFは0.37とであり、昨年度の0.45よりも減少した。昨年度は高濃度のCs-137がふくまれる植物を摂食した比較的少数のイナゴ個体の存在により移行係数が高まった可能性が示唆されたが、今年度はそのような移行係数の上昇はみられなかった。イナゴのCs-137濃度と植物のCs-137濃度、イナゴのCs-137濃度と空間線量率とのあいだにそれぞれ正の相関がみとめられたことから、コバネイナゴは生食連鎖をつうじた放射性Csの移行や放射Csによる草地の汚染を評価するための指標生物として有効であることが示唆された。研究期間全体をつうじて、当初より計画していた1)放射性Csの残存状況モニタリング、2)森林生態系における食物連鎖構造の解明と指標生物の選定、3)指標生物をもちいた放射性Cs残存状況予測システムの構築のうち、1と3については期待どおりの成果をあげることができた。いっぽう3についてはシステムの基礎となる知見をえることはできたものの、実用段階にはいたっておらず、さらなる研究が必要である。
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Proceedings of the 23rd Workshop on Environmental Radioactivity, KEK Proceedings
巻: 2 ページ: 55-60