本研究では、培養細胞や実験動物を用いた原虫-ウイルス共感染実験によって、トキソプラズマ潜伏感染がウイルスの増殖や病原性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。これまでの研究期間全体を通して得られた成果として、1. 自然免疫に関与する宿主転写因子に注目して研究を行った。間接蛍光抗体法によりトキソプラズマ潜伏感染ヒト線維芽細胞におけるSTAT1の局在ならびにリン酸化を評価した結果、高pHによるブラディゾイトへの誘導を行った感染細胞ではSTAT1の核内移行が認められた。一方、通常のpHのまま培養することでタキゾイトのままにした場合、感染細胞ではSTAT1の核内移行が認められなかった。したがって、トキソプラズマのブラディゾイトステージ虫体は感染細胞のSTAT1を活性化することで抗ウイルス自然免疫応答を活性化させている可能性が考えられた。2. マウスにトキソプラズマを感染させ、30日飼育することで潜伏感染マウスモデルを作出した。正常なマウスと潜伏感染マウスに、日本脳炎ウイルスと単純ヘルペスウイルスを脳内接種することで攻撃したところ、正常マウスにとって致死量のウイルス接種に対し、潜伏感染マウスは半数以上が生残した。すなわち、トキソプラズマ潜伏感染によって誘導された抗ウイルス自然免疫応答が、生体においてもウイルス感染に対する防御機能をもつことが示唆された。最終年度は、本現象がトキソプラズマ株依存的か、普遍的な現象なのか調べるため、これまで用いてきたPLK株以外の株(PruΔKu80株)をマウスに接種したのち日本脳炎ウイルスを接種した結果、PLK株同様に病原性の軽減が認められた。
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