家畜生産現場で使われる抗生物質の量はヒトを対象とした医療用としての用途よりも多く、それが選択圧として作用し薬剤耐性菌出現の温床となりうることから公衆衛生上の大きな問題となっている。そのため家畜生産現場での抗生物質使用量の低減化は畜産業の持続的な発展のみならず、人類社会のために解決しなければならない喫緊の課題である。本研究では、酪農現場で最も経済的損失の大きい乳房炎の新規防除法の開発を目指し、既存の抗生物質に比べ薬剤耐性菌出現頻度の低い抗菌ペプチドの中でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に有効なマダニ由来抗菌ペプチドpersulcatusinに注目し、persulcatusinを応用した新規乳房炎防除法の開発に向けた第一歩として、微生物(大腸菌)を宿主としたpersulcatusin高発現系を構築した。次いで、大腸菌で高発現した組換え型persulcatusinの部分精製標品を取得しその抗菌活性評価を行い以下の結果を得た。1)タグとして用いたカルモデュリンとpersulcatusinとの融合タンパク質は抗菌活性を示したが、リンカーをTEVプロテアーゼで切断後の未精製標品の抗菌活性は融合体よりも高かった。2) persulcatusinの作用メカニズムを明らかにするためのアプローチとして、黄色ブドウ球菌の非必須一遺伝子欠損変異株ライブラリー(Nebraska Library)を用いた評価系を確立し、persulcatusinに対する感受性が増強(persulcatusinに対する最少発育阻止濃度が低下)したクローンをスクリーニングした結果、感受性が変化したクローンが複数見いだされた。3)黄色ブドウ球菌標準株を生育阻止濃度以下のpersulcatusin存在下で継代培養した時の耐性菌が出現するレベルは、対照として用いた抗菌ペプチドであるナイシンよりも低かった。
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