研究課題
本研究では、犬腫瘍細胞に発現するポドプラニン(PDPN)を標的とした抗体療法の有効性・安全性の検証による新たな治療法の確立を目指している。これまでに、犬固形腫瘍において、標的抗原PDPNを発現する腫瘍をさらに詳しく調べ、今までにわかっていた犬扁平上皮癌や犬肛門嚢腺癌、犬膀胱癌に加え、犬悪性黒色腫においても発現を認めることがわかった。犬悪性黒色腫は、効果的な治療法が少なく発生頻度も高いことから、本抗体療法の対象となる症例が格段に拡がった。さらに、犬悪性黒色腫において、PDPN高発現症例では、増殖マーカーKi67の発現が高く、PDPNが犬悪性黒色腫の何らかの悪性形質に関与している可能性も示されてきた。分担研究者である加藤幸成らにより作製された抗犬PDPN抗体のPDPN発現犬腫瘍細胞株への結合性を、我々が保有する約30種の犬腫瘍細胞株で検証した。その結果、11細胞株中4細胞株の犬悪性黒色腫細胞株において結合性を示した。さらに、作製した活性化犬リンパ球とPDPN陽性犬悪性黒色腫細胞株、抗犬PDPN抗体の共培養を行ったところ、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を認めた。ヌードマウスを用いた検証においても、抗体投与によるin vivo抗腫瘍効果を認めた。この結果をもとに、本抗体の大量培養・精製を行い、実験犬での安全性検証を実施した。実験犬に2週間おきに2mg/kgの抗体を8週間に渡って投与したところ、1週間以上の抗体の血中への残存を認め、本プロトコルを暫定的な投与量として決定した。安全性の検証では、臨床症状、血液学的・画像学的、病理組織学的な副作用を全く認めなかった。本学、治験委員会の承認を受け、これまでに、3例の犬悪性固形腫瘍症例への抗PDPN抗体の投与を行った結果、重度の副作用は認められず、一部の治験症例では、抗体投与による免疫学的な変化、抗腫瘍効果を示唆する所見も得られている。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度において、本抗体の臨床試験の対象症例が定まった。犬で発生頻度の多い悪性腫瘍である犬悪性黒色腫において、PDPN発現を認めたことにより、当初の想定より、対象症例が拡がり、次年度の臨床試験の進捗も加速すると考えられる。さらに、犬悪性黒色腫において、PDPNが何らかの悪性形質に関与している可能性を発見し、本研究のさらなる発展が期待される。実験犬での安全性検証も順調に進み、すでに3症例の臨床試験にも成功していることから、次年度は臨床試験のさらなる症例数と解析結果の追加が期待される。
初年度の解析により発見されたPDPN陽性犬悪性黒色腫細胞株を用いたPDPNの悪性形質との関連をsiRNAやCrisper/Cas9法によるノックダウンなどを用いて、in vitroおよびin vivo解析を進める。さらに、新規に犬扁平上皮癌細胞株の入手に成功したので、本細胞株におけるPDPN発現やその機能の検証を進める。すでに、作製・精製が完了している分および次年度、作製・精製する分を合わせて、十分な抗体量の確保が見込めるので、さらに臨床試験の症例数を蓄積し、有効性・安全性の検証を進める。また、臨床試験症例検体を用いた抗腫瘍効果や副作用の機序解析を行う。
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