研究課題/領域番号 |
19K22367
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
万年 英之 神戸大学, 農学研究科, 教授 (20263395)
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研究分担者 |
笹崎 晋史 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (50457115)
米澤 隆弘 東京農業大学, 農学部, 准教授 (90508566)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | ヤギ / ミトコンドリアDNA / Y染色体由来マーカー / 高密度SNPアレイ / 遺伝的多様性 / 環境適応形質遺伝子 / 伝播 / 起源 |
研究実績の概要 |
本研究では、世界規模で収集されたヤギのDNA試料に対し、全ゲノム解析を用いた大規模DNA情報解析を利用した起源・伝播経路の解明と環境適応形質遺伝子の全貌解明を着想し、その足掛かりとなる包括的研究を実施することを目的とする。
本年度は、母系mtDNAやY染色体由来マーカー、環境適用遺伝子に対する解析を中心に研究を進めた。1)東南アジアのフィリピンとインドネシアにおける在来ヤギに対し、母系mtDNA D-loop領域の塩基配列決定を行った結果、フィリピン・インドネシア在来ヤギの両方において高頻度のハプログループBが検出された。またその傾向は、南東に向かうほど高くなる傾向が認められた。2) 東南アジアのフィリピンとインドネシアにおける在来ヤギに対し、Y染色体由来マーカーSRY遺伝子3’UTR領域の塩基配列決定を行った結果、フィリピン・インドネシア在来ヤギでは、東南アジア大陸部では観察されないハプロタイプY1BとY2Aが観察された。この結果は、東南アジア諸島部における在来ヤギは東南アジア大陸部とは異なる遺伝的影響や伝播経路を有することを強く示唆しており、中世時代における大航海時代の人為的影響が考えられた。3) ネパール在来ヤギは標高100m以下の低地から数千mに至る高知まで幅広く適応した品種が存在している。この観点から、高地適応遺伝子として考えられるEPAS1遺伝子、FGF5遺伝子多型に関する調査を行った結果、飼育地域の標高が高い品種ほど変異アリル頻度が高くなる傾向が観察され、飼育地域の標高と変異アリル頻度間に強い正の相関が観察された。詳細な分析の結果、これらはネパール国内で環境に適応して品種分化したのではなく、少なくとも3つの異なる起源を持つヤギが異なるルートで伝播した結果であることが推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、世界規模で収集されたヤギのDNA試料に対し、全ゲノム解析を用いた大規模DNA情報解析を利用した起源・伝播経路の解明を目的の一つとしている。 ・2020年度は、母系mtDNAやY染色体由来マーカー、環境適用遺伝子に対する解析を中心に研究を進めた。1)東南アジアのフィリピンとインドネシアにおける在来ヤギに対し、母系mtDNA D-loop領域の塩基配列決定を行った。その結果、フィリピン在来ヤギのハプログループBの頻度が74%、インドネシア在来ヤギは98%であり、東南アジアで最も高い頻度が示された。その傾向は、南東に向かうほど高くなる傾向が認められた。2) 同様に、Y染色体由来マーカーSRY遺伝子3’UTR領域の塩基配列決定を行った。その結果、フィリピン在来ヤギではハプロタイプY1A, Y1B, Y2A, Y2B、インドネシア在来ヤギではY1A, Y2A, Y2Bが観察された。東南アジア大陸部ではY1AとY2Bしか観察されないことから、これら諸島部は中世時代における他地域からの遺伝子流入があったことが示唆された。3) ネパール在来ヤギに対し、高地適応遺伝子として考えられるEPAS1遺伝子、FGF5遺伝子多型に関する調査を行った。その結果、飼育地域の標高が高い品種ほど変異アリル頻度が高くなる傾向が観察され、この傾向に対して相関係数を算出したところ、飼育地域の標高と変異アリル頻度間に強い正の相関が観察された。 ・これらの結果は、第21回日本動物遺伝育種学会大会(2020年11月)、第128回日本畜産学会大会(2021年3月)、日本動物遺伝育種学会・在来家畜研究会合同シンポジウム(2021年3月)において3課題の発表を行っている。またAnimal Science Journalに1報原著論文を報告した。したがって、本年度の研究進捗状況としては順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、得られた各種DNAデータを用い、特に東南アジア在来ヤギに特異的に見られる遺伝構造に着目し、アジア在来ヤギの起源と伝播について新しい仮説を提唱する。 1)2019年度はアジア10ヵ国11集団(中央アジア:カザフスタン、モンゴル / 東南アジア:フィリピン、ミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジア平地、カンボジア山地 / 南アジア:バングラデシュ、ブータン、ネパール)の在来ヤギサンプル240個体に適用した。これらに加えて2021年度は、インドネシア、フィリピン、キルギス、マダガスカルのサンプルを加えることや頭数を増加させ、約250頭に増加した解析を行う。これまでに得られたすべてのデータを用いた解析を行い(予定として本研究で得られるSNP情報が>500頭、データベースから約800頭)、STRUCTURE解析やADMIXTURE解析を通して、アジアを中心とする在来ヤギの遺伝的類縁関係や遺伝的構造を分析し、そこから伝播経路に関する知見を得る。 2) これら高密度SNPアレイ情報を用い、これらのサンプルに付随している形質データとのゲノムワイド相関解析を「肉髭の有無」「角の有無」を対象形質とした相関解析をおこなう。関連が認められた染色体領域に対して候補遺伝子を絞り込み、その多型との関連解析を実施する。 3) 最終的に常染色体として高密度SNPアレイ情報、母系としてmtDNA D-loop配列、父系としてSRY遺伝子3’UTR領域配列、形質関連遺伝子の遺伝情報を包括し、アジア在来ヤギの起源と伝播について新しい仮説を提唱する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナ禍の影響があり、当時予定していた第2回目のヤギ高密度SNPアレイ解析やミトゲノム解析を2021年度に延期し、母系mtDNAやY染色体由来マーカー、環境適用遺伝子に対する解析を中心に研究を進めた。これら延期した解析が費用の掛かる分であり、その額が残額となった。2021年度は両解析ともにめどが立っているために、これらの解析を実施することにより、この費用として計上したい。
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