研究課題
本研究では、マウス脳におけるインターロイキン類のゲノムワイド効果解析から、単純な液性因子投与による慢性疾患の防止機構を解明し、動物病態制御の簡便化に繋げていくものである。これにより、免疫関連分子が、シグナル伝達を介した細胞増殖制御と免疫反応に関与する以外にも、「ゲノム免疫」に寄与すると考え、新分野を開拓する。本年度は、まず、IL17ファミリーの一つであるIL17Dがマウス胎仔期に神経系細胞で発現が上昇すること、また、in vitroノックダウンにより,発達期のニューロンがアポトーシスすることを見出した。IL17Dが神経系細胞の発達を促進したことから、オーソログであるIL17Aの効果に拮抗できるかを明らかにするため、in vitroにおいてIL17Dの下流シグナルの同定を試み、また、in vivoにおいて、母体の炎症ストレスをIL17Dにより抑制できるかを調べた。下流シグナルの違いの検討には、妊娠14日目(E14)の神経幹細胞を調整した。in vivo実験には、炎症惹起のモデルであるPoly(I:C)あるいはIL17Aを投与した雌マウスを用い、PBS投与群とIL17D投与群を用意し、投与効果の評価をE18胎仔脳切片の病理像により行った。in vitroでは、IL17D添加によりMEKシグナルが下流で作動した。in vivoでは、Poly(I:C)投与・IL17A投与いずれにおいても大脳皮質の第II層からVI層の構造の異常が観察され、それはIL17Dの投与により顕著に改善された。以上より、IL17DはMEKシグナルを介して正常な脳の発達に重要な機能を持つこと、及びIL17Aが仲介するNF-κB依存性炎症ストレスシグナルを抑制する働きを持つこと、が示唆された。現在、炎症とレトロトランスポゾン活性化の関連をMEK・NF-κBシグナルのバランス崩壊の観点から精査しているところである。
1: 当初の計画以上に進展している
IL17Aが仲介する炎症が別のIL17ファミリー分子であるIL17D投与により十分に緩和できたこと、その効果はレセプターの違いによるシグナルのバランスの変化で説明できるところまで突き止めた。目標である、単純因子による炎症の簡便制御、が見通せてきたことは、本課題への挑戦したことの意義を強く深めるものであり、その作用点としてのレトロトランスポゾン制御メカニズムの解明を進めることにより、成果が大きく発展する可能性が高いと考えられる。
現在、炎症とレトロトランスポゾン活性化の関連をMEK・NF-κBシグナルのバランス崩壊の観点から精査しているところであり、今後はレトロトランスポゾン抑制因子群の全貌を明らかにすることに力点をおき課題を推進していく。レトロトランスポゾンがRNAに転写されると、ヘテロクロマチン因子のデコイとなり、そのレトロトランスポゾンをコードするゲノムにはDNAメチル化マシーナリーを含むヘテロクロマチン因子がアクセスしにくくなる。ニューロン分化時、LINE型のレトロトランスポゾンL1の活性が上昇する。まず、L1の配列断片を200 bp刻みで全長に渡り用意し、in vitroにてDNAメチル化した上で、神経幹細胞に導入し、DNAメチル化消去のカイネティクスを経時的に調べる。L1のRNA発現ベクターを同様に導入し、各種ヘテロクロマチン因子の免疫沈降により結合するL1断片のRNAを回収後、RT-PCRによりヘテロクロマチン因子へのL1会合度合の変化を追跡する。加えて、ゲノム上のMBD1/SEDTB1/CAF1にレトロポランスポゾン抑制活性が知られることからこれらのノックダウン実験を行う。レトロトランスポゾン発現上位5つについてもL1の実験と同様に行っていく。
本年度は試薬費・動物購入費を効率的に運用することにつとめることができた。これにより、次年度においては、研究課題の本丸であるレトロトランスポゾンの動作原理を解明に向けて、細胞操作や生化学的解析の項目を大きく拡充することが可能となった。
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Journal of Reproduction and Development
巻: Epub ページ: Epub
10.1262/jrd.2019-164
Stem Cell Research
巻: 44 ページ: 101749
10.1016/j.scr.2020.101749
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2019/200228_2.html