我々は、抗生物質によってハマダラ蚊の腸内細菌叢のバランスを破綻してある特定の腸内細菌を増加させると、蚊の卵巣形成機能が低下することを見出した。この特定の腸内細菌は環境中の常在菌でもあったことから、この菌を用いた蚊の発生をコントロールすることを最終目標とした。本研究は蚊の腸内細菌叢より卵巣形成機能を低下させる作用がある腸内細菌の同定後にその応用利用の可能性を検討する。さらに、根拠となるそれら作用機序を解明することを目的として実施された。 まず、ハマダラ蚊の腸内細菌叢の破綻による雌蚊への影響を検討した。ハマダラ蚊の腸内細菌叢の破綻は、ある抗生物質において70%以上の個体で卵巣形成機能が抑制されていた。次に無処置群と抗生物質群の中腸内細菌叢を解析した結果、抗生物質群において中腸内における特定の菌の割合が大幅に上昇している事が明らかとなった。特定の菌が卵巣形成機能の抑制に関与していると考えられた為、中腸から特定の菌を分離して10%スクロースに添加して蚊を飼育したところ、卵巣形成機能を抑制した。さらに、10%スクロースに特定の菌を懸濁した後、熱処理を行い、死菌を遠心除去した上清で蚊を飼育しても卵巣形成機能を抑制した。以上のことから、菌懸濁液熱処理後の上清に卵巣形成機能効果を示す化合物が含まれていることが示唆された。 次に、卵巣形成機能抑制機序の解明を試みた。卵形成に必要な栄養分の大きな要因となる吸血量、血液消化能を解析した結果、菌摂取蚊と未処置蚊では差がなかったが、菌摂取蚊では卵発育に必須の卵黄前駆体タンパク質のmRNA 発現量が減少傾向にあった。 研究計画通り、卵巣形成機能を低下作用がある腸内細菌および化合物含有物質を絞り込めたが、卵巣形成機能効果を示す化合物の同定、さらなる卵巣形成機能抑制機序の解明を実施していく検討が今後の課題となった。
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