研究課題/領域番号 |
19K22374
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
廣瀬 哲郎 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 教授 (30273220)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | RNA / 超分子複合体 / 核構造・機能 / タンパク質 |
研究実績の概要 |
核内相分離構造体パラスペックルの構造骨格として働いているNEAT1 lncRNAは、23kbにも及ぶ長大なRNAである。パラスペックル構造体中で、NEAT1の5'末端と3'末端の双方は構造体表面領域(シェル)に、中央領域を構造体内部領域(コア)に存在しU字型の立体構造をとっていることが明らかになったことから、5'側と3'側をひとまとめにする機構の存在が示唆されていた。またこうしたRNA構造がパラスペックル内部の微細構造形成に重要な役割を果たしていると考えられている。最近米国グループによる情報学的RNA二次構造予測によって、5'末端近傍と3'末端近傍領域との間に断続的な塩基配列の相補性がブロードに認められることが指摘されたことから、RNA-RNA間の短い相補配列の蓄積である、いわゆる「RNAのもつれ」によってNEAT1の機能的立体構造が決定されている可能性が浮上した。そこでこの相補領域を欠いたNEAT1変異体を用いて解析した結果、5'と3'の相補部位双方を大きく欠失したNEAT1変異体は、パラスペックル内部でU字構造を取らず、5'末端のみシェルに、3'末端はコアに位置した線状構造に変化することが明らかになった。これによってパラスペックルの大きさやダイナミクスが変化し、さらに核内の別の非膜性構造体に取り込まれるなどの予想外の表現型を示すことが明らかになった。一方、これまで相分離構造体を解離する1,6-ヘキサンジオール処理によって、HSATIII ncRNAを骨格とした核内ストレス体(nSB)のRNA凝集体が保持されることを見出し、RNA間相互作用の重要性が示唆されていたが、今回nSBの中心的なタンパク質因子であるSAFBファミリーをノックダウンしてもやはりnSBは解離しないことを見出し、タンパク質よりもRNA間相互作用が構造骨格形成に寄与していることを支持するものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「RNAのもつれ」という概念は、in vitroにおけるRNA-RNA相互作用によるゲル形成に関する報告に基づいて細胞内において仮定したものであったが、今回相分離構造体の内のRNA分子の機能的な立体構造形成に「RNAのもつれ」ともいうべき短いRNA間相互作用の蓄積が寄与していることが、情報学的予測とゲノム編集を用いた検証によって示された。これによって細胞内においても転写部位近傍のRNAが高濃度に存在する部位において「RNAのもつれ」が、新規合成されてきたRNAのその後の運命を決める重要な役割を果たしている可能性を示唆するものとなった。今回のNEAT1 ncRNAの立体構造形成は、細胞内における「RNAのもつれ」の寄与度を測る有用な表現型として利用することができ、当初の計画以上の成果と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
「RNAのもつれ」によって形成されるNEAT1のU字型の立体構造形成は、RNA間相互作用とそれを仲立ちするタンパク質因子の機能によって達成されると考えられるので、RNA-RNA相互作用を促進する働きのあるタンパク質因子を、これまで同定済のパラスペックル構成因子の中から明らかにする。一方で細胞内のRNA-RNA相互作用を阻害する手法として、これまでに米国グループの論文で用いられている条件を試行したが、期待した効果は認められなかったことから、細胞内での「RNAのもつれ」を制御する新しい手法が必要なことが再認識された。そこでRNA二本鎖を解く活性をもつRNAヘリカーゼを作用させる手法や短鎖アンチセンス核酸によって「RNAのもつれ」を乱れさせることの有効性を検討し、細胞内での「RNAのもつれ」の制御系を確立することを目指す。こうした手法によってこれまで見逃されていた細胞内における「RNAのもつれ」の重要性を明らかにできる体制を整備できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は細胞内における「RNAのもつれ」に関する重要なデータが得られその研究に注力したため、当初予定していたin vitroにおける「RNAのもつれ」の再現実験は次年度に持ち越された。そこでそれらの実験に用いるRNA合成関連試薬の購入も次年度に持ち越された。次年度は上記細胞内のおける解析と平行してin vitroにおける「RNAのもつれ」に関する研究を開始し、これらの助成金を使用する予定である。
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