前年度に引き続き、核内相分離構造体パラスペックルの構造骨格として働いているNEAT1 lncRNAが、パラスペックル構造体中で、NEAT1の両末端を構造体表面領域(シェル)に、中央領域を構造体内部領域(コア)に存在しU字型の立体構造をとりつつ、5'側と3'側をひとまとめになって存在している機構についてCRISPR/cas9ゲノム編集による変異解析を行った。その結果、5'と3'領域のそれぞれを欠失したNEAT1変異体は、パラスペックル内部でU字構造を取りづらくなり、欠失側のRNA末端がシェルからコアに存在位置を変化させ線状構造に変化することが明らかになった。さらに5'と3'末端領域の両方を同時に欠失させると、もはやシェルーコア構造は取れなくなり、構造体内にランダムにRNA末端が配置するように変化することが明らかになった。またパラスペックルの大きさや含まれるRNAの分子数もこうした欠失変異によって大きく変化することが明らかになった。さらにこうした挙動を共同研究によって構築したソフトマター物理学の構造体形成理論に沿って検証したところ、野生型NEAT1とタンパク質からなる複合体が、両末端に親水性領域と中央に疎水性領域からなるブロック共重合体として振る舞い、それらがミセル構造を形成する過程がパラスペックルの形成過程をうまく説明できることが明らかになった。一方で共同研究による情報学的解析によって、NEAT1は全長にわたって多数の短いRNA-RNA相互作用によってRNA分子同士が会合できることが明らかになり、こうしたRNAのもつれがNEAT1ブロック共重合体を束ねてシェル領域において5'領域と3'領域を区画化する原動力となっている可能性が強く示唆された。この成果に関する論文を投稿し、最近EMBO Journal誌にアクセプトされた。
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