配偶子の卵子には初期発生に必要なほぼ全ての因子が準備されており、その形成は動物の誕生に極めて重要である。近年のゼブラフィッシュを用いた研究で、卵子は1万種類を超える転写産物を蓄えることが明らかとなった。本研究はこの卵子に蓄積される転写産物の働きを知るために、最適化された新規の母性効果変異体スクリーニング法を確立することを目的とした。本年度の研究で、新たに5系統の遺伝子挿入系統を単離した。さらに、lin37遺伝子の第1イントロンに遺伝子トラップベクターが挿入された系統について、遺伝子挿入をホモ二倍体に持つ稚魚を同定し、その表現型を詳細に解析した。RT-PCRの解析からベクター内のスプライスアクセプターが上流の転写産物をトラップしていること、ホモ2倍体胚でlin37遺伝子の転写産物が欠損していることを確認した。lin37転写産物を持たない胚は野生胚と同様に受精後1週間程度で泳ぎ始めたが、約1ヶ月目あたりから生存率が著しく悪化し、90日までに全ての個体が死亡した。受精後1ヶ月の稚魚を固定し、内部構造の変化を組織学的に詳細に解析した結果、脳と目の組織に異常が見られるものの野生型稚魚と同様に生殖腺が形成され、分化直後と思われる卵母細胞が観察された。本年度の研究成果は遺伝子トラップベクターが胚発生のみでなくその後の成長においても挿入遺伝子の転写を阻害できること、トラップした遺伝子産物の卵母細胞形成における機能を形態学的に検証できることを示した。本研究で、210ペアの個体について遺伝子トラップの有無をスクリーニングし、45系統の単離に成功した。約20系統においてホモ2倍体個体を同定し、表現型解析に至っている。すなわち、本研究の新規母性効果変異体スクリーニングの有効性を示し、その実施によって卵形成と胚発生の新たな仕組みを解き明かせることを示した。
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