研究課題/領域番号 |
19K22377
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
白木 賢太郎 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90334797)
|
研究分担者 |
冨田 峻介 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (50726817)
栗之丸 隆章 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (50769693)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
|
キーワード | タンパク質 / 高分子電解質 / 安定化 / 相分離 / 添加剤 / アルコール |
研究実績の概要 |
タンパク質は高分子電解質と混合すると、両者の物性や溶液の条件に応じてタンパク質高分子電解質複合体(Protein-Polyelectrolyte Complex; PPC)を形成する。本研究では、試験管内でのタンパク質ドロプレット形成に関わるパラメータを同定し、これをもとにドロプレット形成を任意にコントロールできる方法の確立を目指した。まず、ポリアミノ酸を天然変性タンパク質とし、抗体との複合体によってドロプレットを形成する条件およびメカニズムを次のように明らかにした。複合体は、アルコールや塩などのごくありふれた添加剤の種類を変えるだけで、透明な可溶性PPCと白濁した凝集性PPCに分けられることがわかった。それぞれの状態を蛍光顕微鏡や光学顕微鏡で観察すると、可溶性PPCはドロプレットであることがわかった。ドロプレットは可逆に溶融させることも可能であることがわかった。また、可溶性PPCはタンパク質が高濃度化された状態であり、粘度が著しく低下することがわかった。現在、粘度低下のメカニズムを調べるために、振動式粘度計による定量化を進めている段階である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、初年度は可溶性PPCと凝集性PPCがどのようなメカニズムで形成されるのかを明らかにすることであり、その点においておおむね順調に進展していると考えられる。 具体的には、可溶性PPCの形成時に化合物を添加することで、沈殿と再溶解のいずれにも影響が及ぶということが明らかになった。試料として免疫グロブリンG(IgG)とポリLグルタミン酸(polyE)を用いて、PPCの構造を分光光度計や光学顕微鏡、円偏光二色性分散計などで調べた。その結果、アルコールを添加することで沈殿率の改善および、完全な再溶解率を達成することがわかった。一方で、ポリエチレングリコールは再溶解率が大幅に低下し、オスモライトは沈殿率が低下することがわかり、これらはPPCを形成させる添加剤として好ましくないことがわかった。好ましいPPCの形成にはpolyEの二次構造の形成が重要な役割を担うのだろう。この成果は現在、論文に投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
一連の実験を行うなかで、このPPCの方法で100 mg/mLもの高濃度のタンパク質溶液まで測定ができること、および、沈殿したときに粘度が低下する可能性があることがわかった。そのためPPCがタンパク質の濃縮や安定化のほか、低粘度化の方法として使えるのなら、この相分離テクノロジーがバイオ医薬品の濃縮技術に応用できるだろう。さらに、IgG-PolyEは白濁するという見た目の欠点があるため、この状態を分光法を用いて精査する必要があるとともに、白濁しない方法の開発が必要になるだろう。 本研究が成功すれば、タンパク質の安定化技術・製剤技術として次の利点がある。(i) 粘度を増加させることなく高濃度化できるため、皮下投与など濃縮が必要な製剤技術になる。(ii) 常温でも安定化されているため、不安定な酵素薬などを安全に流通させることが可能になり製造コストが大幅に下がる。(iii) 現在では抗体薬は凍結乾燥されているが、液体製剤として流通させることで溶解時の凝集形成などをふせぐことができ安全性が高まると考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験の遂行に関する主に消耗品費用が、初年度の使用額が当初の見積より少なくて済んだため。本年度から粘度の低下の研究を本格化するが、抗体などのタンパク質を必要とするために、当初の予定どおりの総額を執行する予定である。
|