研究課題/領域番号 |
19K22382
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
老木 成稔 福井大学, 高エネルギー医学研究センター, 特命教授 (10185176)
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研究分担者 |
岩本 真幸 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (40452122)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 脂質2重膜 / イオンチャネル / 膜物性 / 膜張力 / 接触バブル2重膜法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は人工細胞膜をデザインし、組み立て、実際に稼働させることを通して、生体膜のシステムとしての成り立ち・機構を解明することである。そしてそのための新しい実験プラットフォームを確立することである。細胞膜は細胞の情報処理と物質輸送の場であるが、ダイナミックに変化する構造の複雑さのために、そのメカニズムを深く理解するには様々な制約がある。たとえば細胞膜は多種類のリン脂質と膜蛋白質などからなり、均一な系とは言い難い。また実験対象としても膜張力の負荷や測定は細胞骨格などの影響を大きく受け、正確な評価は難しい。加えて実験手法としてのパッチクランプ法では膜張力の絶対値を測定することは不可能である。このような生体膜につきまとう複雑性を回避するために脂質平面膜が使われてきたが、この方法では細胞膜のきわめて限られた機能しか再現できない。一方、私たちが開発した接触バブル2重膜(Contact Bubble Bilayer; CBB)法では従来の脂質平面膜法の多くの欠点を解決することができた。この方法を使って細胞膜の機能を一つ一つ再現していくことが本研究の目的である。 生体膜で時々刻々と変化する膜の化学組成と張力などの力学的変化をCBB法で再現するために急速膜灌流法を開発し、膜コレステロール濃度を瞬間的に変化させたときのチャネルの応答を捉えることに成功した。このとき膜張力の変化を捉える方法を確立し、機械受容チャネルでないと考えられてきたカリウムチャネルの張力依存性を明らかにした。さらに生体膜に存在するリン脂質の中でチャネルに特異的に結合することを捉える方法を開発し、そのリン脂質がチャネルを活性化させる分子機構を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CBB法を工夫し、膜張力をリアルタイムで測定する系を確立しつつある。従来は張力測定に数秒かかったがこれを究極的には連続測定するための方法である。これによりチャネル電流の測定を連続して行いながら張力の変化との対応をつけることができる全く新しい実験系である。この方法について現在投稿準備中である。 チャネルの向きをそろえて膜に再構成したものを使い、チャネルとチャネル毒との結合ダイナミクスを高速原子間力顕微鏡によってとらえることに成功した。このような時系列データからチャネル毒の結合に伴いチャネルが構造を変えることを発見した。これは従来から知られているinduced-fitという概念で説明できるが、それを一分子解析によって証明することができた。 チャネルに特異的に結合するリン脂質をスクリーニングする方法を共同研究者と開発し、この方法でKcsAカリウムチャネルに高親和性で結合するリン脂質を発見した。このリン脂質をCBB法で膜に組み込むのだが、CBB法では膜の内葉や外葉の一方に特異的に分布させることができる。このような非対称膜でチャネル活性を測定することで、チャネルへの結合部位と新しいチャネルが活性機構を発見した。この成果は現在投稿中である。 チャネル発現系については様々な工夫を行って効率の良い方法を模索している。
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今後の研究の推進方策 |
現在までにin vitro膜蛋白質発現系を使ってチャネル発現を試みてきたが、いくつかの問題点が明らかになってきた。これらの問題を解決するには一分子測定では効率が悪く、チャネルのリポソームへの組み込み実験を進める必要がある。リポソームへの組み込みは成功しており、今後機能特性を測定するための流束測定などの方法を検討しつつある。最終的にはin bulla発現系を目指すが、予想していたよりも解決には時間がかかると考えられる。 チャネルに特異的に結合するリン脂質をスクリーニングする方法を共同研究者と開発することができたので、この方法を使って様々なリン脂質や疎水性物質の結合を捉え、これをCBB法で実験することによって作用の分子機構を解明したい。 膜張力の測定系を自動化することによって、膜張力と単一チャネル活性を時系列で解析することができるので、この方法を確立することが目標である。このために物理化学などの基礎的な検討が必要となっている。 膜の化学と物理が絡み合う作用を明らかにする上でCBB法は最適な方法であり、膜の物理化学的知見を最大限に利用し、膜とチャネルの新しい相互作用とその分子機構を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験のための薬品や器具などの消耗品の使用が予想よりも少なかったことが次年度使用額が生じた理由である。今後、再構成リポソーム系の実験系が必要であり、このための実験器具を消耗品として使用することを予定している。
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