近年、モデル生物種では生育に必須であると示された遺伝子が、別の種では進化の過程で失われるという例が数多く認められた。これは、生物種によっては、必要不可欠と思われていた遺伝子がなくとも増殖可能であることを意味しており、その生物種には必須遺伝子がなくとも増殖を可能にする未発見の仕組みが存在することを示唆している。本研究では、真核細胞内の必須活動には、よく知られた「主要機構」だけでなく、これまで見逃されてきた「サブ機構」が存在し、特定の細胞種や環境下ではサブ機構が極めて重要な役割を担うという仮説を立てた。そして単細胞真核生物・分裂酵母を用いてこの機構の網羅的同定に挑み、細胞の備わった機構の全貌を解明する基盤の確立を目指した まず、92の必須遺伝子のうち、20もの遺伝子について、他の遺伝子を人為的に変異させることで、本来なら増殖不可能な酵母の増殖能を回復させられた。一部のケースについて酵母ゲノムのDNA配列を解析したとこと、未知だった代替機能が亢進した可能性が示唆された(CSF. 2019)。その後、細胞分裂期に重要な働きするとされてきたキナーゼ(Polo)を完全に欠失した分裂酵母が、サプレッサー変異により生存率を回復することを見出し、さらには、生存を回復するために別のキナーゼ(CK1)が機能する必要があることを発見した。すなわち、CK1はサブ機構を担っていた(PNAS. 2022)。さらに、このサブ機構の全貌を解明すべく、合成致死スクリーニングを行った。複数の変異体が取得できたが、追加の遺伝学的解析により、サブ機構を担うと断定できるものはCK1以外に見出せなかった。CK1がサブ機構の中核を担うことが示唆された。 本研究を通じて、サブ機構が広く存在することを実証するとともに、そのひとつについては分子機構の一端が明らかにできた。
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