研究実績の概要 |
本研究では「生体内リン酸化反応のリン酸基供与体はATP、という常識は取り払うべきではないか?」という命題に挑む。従来生体内におけるリン酸化反応では、ごく一部の例外を除いてATPがリン酸基の供給源であると広く信じられてきた。これに対し我々は、ピロリン酸 (PPi) をはじめとする様々な高エネルギーリン酸結合を持つ化合物が、多くの場面でATPの代替をしていると考えている。そこで、立体構造並びに一次配列のデータベースに登録された情報を基に、PPi依存性のリン酸化酵素 (PPi-kinase) を大量同定することにより、生体内リン酸化反応におけるリン酸源はATPという従来の考えの転換を図る。 研究初年度には、立体構造データベースに登録されている機能未知酵素の立体構造に着目し、PPi依存性酵素の候補を探索した。過去に我々が発表した方法(文献1)を参考に、機能未知酵素とそれに類似したATP依存性の既知酵素の結晶構造を重ね合わせた。機能未知酵素上で、既知酵素のATP結合部位に対応する部位が、アミノ酸残基で埋められているものをPPi-kinaseの候補とした。このような検索の結果、複数のPPi依存性酵素の候補を決定することができた。またATPを結合した酵素の中には、ATPのアデニン環を特異的に認識する残基を持たないものも多かった。このような酵素はATP以外のヌクレオチド三リン酸によっても、リン酸化反応を触媒できる可能性が高い。 これらの候補酵素の一部については、結晶構造決定のために行われた実験を参考にしながら、発現系の構築も行った。 文献 1. Nagata, R., Fujihashi, M. et al. Nat. Commun., (2018), 9, 1765
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