研究課題/領域番号 |
19K22387
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齊藤 博英 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (20423014)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | RNA高次構造 / RNA structurome / RNA G-quadruplex / Hoogsten 塩基対 / RNAモチーフ / RNA結合リガンド / RNA |
研究実績の概要 |
遺伝情報全体(Genome)、RNA転写産物全体(Transcriptome)の概念を上書きする、生物が有するRNA高次構造の総体「RNA Structurome (ストラクチュローム)」が提言され、 RNA構造の観点から様々な生物学的現象が解き明かされ始めている。 しかしこれまでの研究の多くは、ワトソン-クリック(WC)型塩基対のみに着目し、それに基づくモデルを強引に当てはめている。このことが原因となり、一部では実際に形成されるRNA構造と全く異なる構造情報を取り扱っている。このため、RNA生物学分野の全体において,RNA構造の実態との乖離をある程度認めた上で実験を行う必要があるという研究への妥協につながっており、RNAの機能解析において高次構造という観点を大きく見落としていた。 本研究では申請者らが開発した「RNA構造ライブラリ」を用いて、非WC型塩基対からなるRNA高次構造をゲノムスケールで包括的に同定する。これにより、現状のRNA構造情報全体を大きく作り変える「 “真の” RNA Structurome」の解明を行う。これらは従来のWC塩基対のみに頼りRNA構造を推測していた分野に変革をもたらし「どのような形をもつRNA構造が、どのような細胞内機能を司るのか」といった問いに対して、従来よりも格段に正確な説明を与える。 研究計画1年目では、非WC型塩基対から構成されるRNAグアニン4重鎖構造 (RG4) の発見を行うべく、RG4結合性リガンドと相互作用するRNAを網羅的に定量した。その結果、リガンドごとに結合パターンが顕著に違うことを新たに見出した。最もRG4に対して特異度の高いリガンドを使用することで、精度と正確性の高いRG4の発見手法を確立した。同時にこれまで未探索領域であったクラスからRG4を多数発見することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リガンド選定の過程で、従来の研究で使用実績の多い抗RG4抗体が、著しい非特異性を持つことを明らかにした。RNA構造ライブラリにて網羅的に調査したところ、RG4の高次構造以外にも疾患リピートや特定の配列モチーフへ結合することを突き止めた。RG4の安定性に直結するカリウムイオン含有条件とリチウムイオン含有条件を比較することで、RG4への結合と抗RG4抗体が保有する交差反応ともいうべき相互作用を判別できた。加えて、RG4に結合する報告がある種々のRNA結合タンパク質を検討した結果、DHX36が最もRG4に対して結合性の高いタンパク質であると判明した。さらに、低~中分子化合物を用いて特異性を検討した結果、DHX36と同等の特異性を持つ化合物を同定した。このような特異度の高い分子を選択することで精度の高いRG4検出手法を実現した。 上記のリガンドを用いて、ヒトnon-coding RNA、非翻訳領域、HIVウィルス、既知のRNAエレメントから構成した1万種類のRNA高次構造を用いた大規模アッセイを実施した。そのうち、既知のRG4構造を有意に検出できた上、新規RG4構造を発見した。新規RNAに関しては円偏光二色性スペクトル測定、蛍光アッセイによりRG4の特徴を評価し検証を行った。 上記の研究成果は、独自手法とRNA構造結合性リガンドの網羅的定量により非WC塩基対から構成される高次構造を多様なゲノム領域から発見できた成果である。同時に、本研究計画の真のRNA structurome解明に向けた実験手法としてのシステム的有用性を証明している。これらの研究成果を採択期間内における計画に照らし合わせ、適切な進捗が認められたと判断した。上記の研究成果の一部は現在英国際誌において論文改訂中である。加えて続報の論文投稿を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における最終年度では、コンセプトの汎用性を提示するために以下2項目を達成する。 1. 他の非WC型RNA構造モチーフへの適用: G・A塩基対を保有するKink-turnモチーフの検出へと展開する。検出用リガンドとしてはL7Aeタンパク質を使用する。検出に問題が生じた場合には、量比の検討や親和性が弱い変異タンパク質を使用する。最後にRNAにおける報告がない特定の核酸高次構造に対しても、そのスクリーニングに挑戦する。具体的にはDNAにおいて実績があるいくつかのリガンドを用いて本手法を適用する。評価が困難な場合にはバッファ条件を検討する。またコントロールとしてDNA高次構造ライブラリの使用も検討する。 2. さらなるゲノムワイドスケールへの拡大: より広い生物種へと展開する。特にRNAウィルスゲノムに着目し、その真のRNA Structuromeの解明を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算の次年度使用の理由としては、早期に本手法における重要な問題を発見し解決できた点があげられる。加えて、確立した技術のさらなる精度向上を同年内に図るよりも、本研究によって得られた手法の汎用性に関する研究を優先して行うべきと考えたためである。さらに、汎用性の過程で見つかった新しい問題点の解決を想定してあらかじめ予算を確保することで、本研究全体としての達成率の上昇を図るためである。使用用途としては、精製タンパク質の購入費・外注費、解析基盤であるマイクロアレイ、シーケンス費用として補填する。
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