研究課題/領域番号 |
19K22389
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平岡 泰 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (10359078)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 超長鎖脂肪酸 / 染色体 / ゲノム |
研究実績の概要 |
超長鎖脂肪酸は、総脂肪酸量のわずか数%しか存在しないにもかかわらず、長鎖脂肪酸には代替できない重要な生理的な働きがある。しかし、細胞内での超長鎖脂肪酸の働きには多くの謎が残されている。本研究は、超長鎖脂肪酸が核膜と染色体の機能維持に働く仕組みの理解を目指している。超長鎖脂肪酸伸長酵素欠損や過剰発現のゲノム安定保持に対する影響を検定するために、染色体分離異常を検出できるアッセイ系を構築した。このアッセイ系は、ゲノム上のade6 遺伝子を破壊した上で、人工的に導入した染色体上にade6 遺伝子を持たせておくと、人工染色体を無くした細胞だけ赤いコロニーを作ることから、染色体分離異常を検出できるというものである。まず、核膜や核膜孔複合体、小胞体タンパク質・脂肪酸伸長酵素・セラミド合成酵素などのさまざまな変異体に対して、この人工染色体を持たせた株を作成した。また、超長鎖脂肪酸伸長酵素の欠損は致死なので、欠損表現型を解析するために、条件的欠損細胞を作製し、表現型を生細胞で追跡できるようにした。これらの変異株に対して、超長鎖脂肪酸伸長酵素 Elo2 が、表現型を相補するかどうかの検定を行い、超長鎖脂肪酸が関与するものとしないものを分類した。 このような変異株を作成するなかから、核膜孔複合体の遺伝子 nup184と合成致死となる機能未知の遺伝子cdb4を発見し、さらにこの合成致死をヒトEbp1(cdb4ホモログ)が異種間相補することを明らかにした (Osemwenkhae et al, Genes Cells 2019)。また、細胞内のATP代謝の研究の一環として、細胞性粘菌の分化過程において細胞内ATP濃度が分化運命を左右することを発見し、エネルギー代謝と分化の関係の一端を明らかにした (Hiraoka et al, Genes Cells 2020)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、超長鎖脂肪酸がゲノム安定性を維持する普遍的な仕組みの理解を目指すものであるが、従来、解析が困難だった超長鎖脂肪酸の役割を染色体分離異常など明確な表現型で検出できる実験系を構築することが、まず必要である。今年度は、各種変異株を作成し、超長鎖脂肪酸が核膜と染色体の機能維持に働く仕組みを解析するための準備が整った。これらの変異株に対して、表現型解析に進むことが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
作成したさまざまな変異株に対して、超長鎖脂肪酸伸長酵素の欠損や過剰発現による表現型(核形態・染色体機能および致死性)の変化を生細胞蛍光イメージング解析して、超長鎖脂肪酸とゲノム安定性との遺伝的な因果関係を明らかにする。超長鎖脂肪酸伸長酵素の欠損は致死なので、条件的欠損細胞を作製し、欠損表現型を解析する。目的遺伝子の欠失あるいは過剰発現による影響を評価するために、蛍光イメージング法に加えて電子顕微鏡を用いる。核タンパク質の漏出や核膜損傷のように一過的に起こる現象を捉えるために、Live CLEM(Correlative Light-Electron Microscopy)法を用いる。この方法は、蛍光顕微鏡で連続観察した細胞を、目的の瞬間に化学固定し電子顕微鏡観察する方法であり、核タンパク質漏出時の核膜の状態を調べることができる。 さらに、さまざまな変異体で脂質組成の分析を行い、変異によって脂質組成がどのように変化するか検定する。さらに変異体に対して条件的に超長鎖脂肪酸伸長酵素を発現させて、脂質組成の変化を比較し、超長鎖脂肪酸と表現型との連関を調べ、超長鎖脂肪酸がゲノム安定性維持を支える仕組みを解明する。 これらの表現型解析によって、超長鎖脂肪酸伸長酵素 Elo2 が、表現型を相補するかどうかの検定を行い、超長鎖脂肪酸の関与するものと、しないものを分類することにより、制御の仕組みを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当年度は、解析に用いるさまざまな変異株を作成することに集中し、翌年度に表現型の解析を一気に行うこととした。必要な変異株を揃えてから、表現型解析を一気に行うほうが、研究の効率がよいからである。表現型の解析は、核形態・染色体機能および致死性の生細胞蛍光イメージング観察、電子顕微鏡観察などイメージング解析のほか、脂質組成分析など多岐にわたるため、翌年度に経費を残すことにした。 今年度は、表現型解析のための消耗品と解析を集中的に行うための人件費、成果を発表するための学会・研究会等の参加費・旅費および英文校閲費と論文掲載費を支出する。
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