研究実績の概要 |
超長鎖脂肪酸は、炭素鎖が21 以上の脂肪酸である。総脂肪酸量のわずか数%しか存在しないにもかかわらず、長鎖脂肪酸には代替できない重要な生理的な働きがある。超長鎖脂肪酸は、従来の研究から、セラミドを構成して皮膚の脂質膜に含まれることが知られているが、細胞内での超長鎖脂肪酸の働きは不明なままであった。本研究は、超長鎖脂肪酸の細胞内での機能を明らかにするものである。特に、核膜と染色体の機能維持に働く仕組みの理解を目指して研究を行った。超長鎖脂肪酸伸長酵素欠損や過剰発現のゲノム安定保持に対する影響を検定するために、分裂酵母を用いて、染色体分離異常を検出できるアッセイ系を構築した。まず、核膜や核膜孔複合体、小胞体タンパク質・脂肪酸伸長酵素・セラミド合成酵素などのさまざまな変異体に対して、この人工染色体を持たせた分裂酵母細胞株を作成した。また、超長鎖脂肪酸伸長酵素の欠損は致死なので、特定の条件で欠損が生じる変異細胞株を作製し、その表現型を分子遺伝学的手法と生細胞イメージングの手法を用いて解析した。 その結果、核膜タンパク質Lem2と小胞体タンパク質Lnp1の両者が協動することで、核膜とERとの境界を形成しており、その核膜―小胞体境界の形成・維持がゲノムの維持に重要な働きをすることを明らかにした(Hirano et at, Commun Biol 2020)。超長鎖脂肪酸合成酵素を発現させることで、核膜構造が補強されることも分かってきた。さらに、核膜は、ヘテロクロマチン形成に重要な働きをすることを明らかにした(Hirano et al, Cells 2020)。相同染色体対合過程に働く仕組を明らかにした(Hiraoka, Curr Genet 2020)。
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