研究課題/領域番号 |
19K22390
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
多田隈 尚史 東京大学, 定量生命科学研究所, 協力研究員 (10339707)
|
研究分担者 |
三嶋 雄一郎 京都産業大学, 生命科学部, 准教授 (00557069)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
|
キーワード | 1分子計測(SMD) / 核酸 / 蛋白質 / 分子機械 / マイクロ・ナノデバイス |
研究実績の概要 |
遺伝子発現の自由自在な制御は、生物学の挑戦である。本研究は、独自に開発してきた転写ナノチップを発展させ、細胞や個体内の状態にあわせて自律的にRNA算出するナノデバイスの構築を目的とする。 我々は、これまでに、DNAナノ構造上に転写酵素(T7 RNA polymerase、以下T7 RNAP)と基質遺伝子を集積化した"転写ナノチップ"を構築し、その性質を探ってきたが、いくつかの課題も明らかになってきた。例えば、細胞や個体内で作用させるには、均一なナノチップを多量に作成する必要があるが、従来は、材料調製と構築過程の両方に課題があった。材料調製においては、DNAナノ構造は、長い1本鎖DNAを、短い多数のstaple鎖で折り畳むが、従来は長い1本鎖DNAとしてファージ由来の物を用いていた。この為、配列を自在に変更する事が難しかった。そこで、asymmetric PCRを用いる方法を確立した。また、構築過程においては、DNAナノ構造に蛋白質を集積するが、DNAナノ構造は負電荷の塊である為、等電点の低い蛋白質は、結合が遅く、ナノチップの構築と精製が困難であることが明らかになった。この問題を解決するために、正電荷のペプチドタグを蛋白質に融合させたところ、結語速度定数が700倍向上し、ナノチップの収量向上にも貢献する事がわかった。 また、転写ナノチップが作製したRNAが細胞に与える影響を理解する為には、天然のRNAの挙動を理解する事が重要である。そこで、ゼブラフィッシュの母性遺伝子由来mRNAの安定性に関しても研究を進めた。その結果、従来提唱してきた翻訳効率以外にも複数の要因が寄与している事が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ナノ分子配置技術を用いて、自由自在な遺伝子発現の制御を目標としている。 本年度は、主に、①ナノチップ構築技術の向上に注力した。また、②ナノメートル精度で分子を配置できるという特徴を利用し、分子の配置がナノチップ全体の活性にどのような影響を与えるのかを、キネシンモータータンパク質を集積化させたナノ輸送複合体にて評価した。更に、③RNAの細胞内運命をより理解する為、ゼブラフィッシュの母性遺伝子由来mRNAの安定性に関して理解を深めた。 ①の構築技術では、DNAナノ構造の材料調製技術や、ナノチップへの蛋白質集積化の技術が向上し、均一な多量のサンプルを調整する事が可能となった。②のナノ輸送複合体の実験では、分子の密度が高すぎると、速度は変わらないものの、連続歩行距離が減少した。多数の分子からなるナノチップを設計する際は、分子の自由度だけでなく、立体障害も考慮する必要がある事がわかった。③のmRNA安定性に関しては、複数の要因の切り分けが少しずつ可能となってきた。 本年度は、計画した各項目について、進展が見られた。特に、今後の基盤となる構築技術の向上では、期待以上の進展が見られた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、1) ナノチップがより均一に多量に作れるようになって点を生かし、ゼブラフィッシュ内でのRNA算出を深耕していく。また、2) 内在性のRNAに反応するセンサーが、試験管内で機能する事を確認しているので、細胞内での動作も確認していく。更に、3) これまで別々に準備してきた個々の技術の融合を行っていく。その評価の為には、細胞内におけるRNAの挙動の理解が重要であるので、ゼブラフィッシュにおける母性遺伝子由来mRNAの安定性に関して、更なる理解を目指す。これらの方策で、従来にない実験系を構築し、遺伝子発現の自在な制御を可能にする。
|