研究課題
遺伝子発現の自由自在な制御は、生物学の挑戦である。本研究は、独自に開発してきた転写ナノチップを発展させ、細胞や個体内の状態にあわせて自律的にRNA算出するナノデバイスの構築を目的とする。我々は、これまでに、DNAナノ構造上に転写酵素(T7 RNA polymerase、以下T7 RNAP)と基質遺伝子を集積化した"転写ナノチップ"を構築し、その性質を探ってきたが、いくつかの課題も明らかになってきた。例えば、細胞や個体内で作用させるには、均一なナノチップを多量に作成する必要があるが、従来は、材料調製と構築構造の安定性に課題があった。材料調製においては、DNAナノ構造は、長い1本鎖DNAを、短い多数のstaple鎖で折り畳むが、従来は長い1本鎖DNAとしてファージ由来の物を用いていた。この為、配列を自在に変更する事が難しかった。そこで、asymmetric PCRを用いる方法を確立し、発展させた。構築構造の安定に関しては、DNAナノ構造にUV光を照射する事で、人工的に部分架橋し(チミンダイマー)、安定性がかなり向上した。その結果、精密な3次元構造を得る事が可能なクライオ電子顕微鏡での観察が可能となり、作成した転写ナノチップの詳細な構造解析と、合理設計へのフィードバックが可能となった。また、転写ナノチップが作製したRNAが細胞に与える影響を理解する為には、天然のRNAの挙動を理解する事が重要である。そこで、ゼブラフィッシュの母性遺伝子由来mRNAの安定性に関しても研究を進め、61センスコドンがmRNAの安定性に及ぼす影響を数値化した。その結果、発現の上昇に貢献すると考えられる一群のコドンと、逆に発現を阻害すると考えられる一群のコドンを定義することができた。この情報を用いることで、転写ナノチップによる遺伝子発現操作の効率上昇が期待できる。
すべて 2020
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Nucleic Acids Res.
巻: 48 ページ: 11664-11674
10.1093/nar/gkaa935