研究課題
チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンが属する大型類人猿は、進化的にヒトに最も近いと言われている。その理由は、ヒトと大型類人猿の遺伝子DNA配列の違いがわずか数%程度に見積もられているからである。しかし、それは両者のゲノムにおいて比較可能な領域のみでの話である。実は、染色体構造に明らかな違いがある。その代表例として、チンパンジー、ボノボ、ゴリラでは、テロメアとサブテロメアの間に32塩基を単位とする長大な繰り返し配列 (StSat [Subterminal Satellite] 配列) が存在するが、ヒトには全く存在しないことがあげられる。DNA繰り返し配列を含む染色体領域の多くは、ヘテロクロマチンなどの高次クロマチン構造を形成し、周辺の遺伝子発現を抑制する効果を持つことが知られている。従って、StSat配列も特殊なクロマチン構造を形成して、隣接するサブテロメア領域の遺伝子発現を抑制し、それがヒトと大型類人猿の特徴の違いをもたらしている可能性を検討するため、以下の研究を行った。まず、チンパンジーのStSat領域のクロマチン状態、すなわちヒストン修飾を解析した。ヘテロクロマチンに見られるヒストン修飾(H3K9me3など)が高度に検出されたが、ユークロマチンに見られるヒストン修飾(H3K9acなど)はほとんど検出されなかったことから、StSat領域ではヘテロクロマチンが形成されていることが示唆された。またpull-down assayにより、StSatに結合しているタンパク質を精製したところ、RNA結合タンパク質などが多数同定された。さらに、StSat配列からはRNAが転写されていることもわかった。
2: おおむね順調に進展している
当初の目的通り、StSat領域のクロマチン構造や周辺のDNA構造を明らかにできつつある。
今後は、StSat配列に特異的に結合するタンパク質を同定し、それをノックダウンした際に細胞にどのような影響(クロマチン構造、サブテロメア遺伝子発現など)が出るか詳しく解析する。
新型コロナ蔓延のため、本研究の実施を担当している学生が十分に研究室に来ることができなくなり、やや研究の進行が遅くなった。そのため、当初2020年度までに予定していたPICh法と質量分析を使ったStSat結合タンパク質の同定を2021年度に行うことになり、研究期間の延長をすることによって、そのための予算を2021年度に移行した。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Nature Communications
巻: 12 ページ: 611
10.1038/s41467-020-20595-1