研究実績の概要 |
本研究の目的は、クライオ電子顕微鏡の単粒子構造解析法を用いて、光合成において水をプロトン、電子、酸素分子へと分解する光化学系II (PSII)の反応中間体の構造を解明する事である。PSII試料へのレーザー照射と同時にサンプルを凍結することで反応中間体を捕捉し、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子構造解析法でPSII反応中間体の構造を解析する。現在、時分割構造解析はSACLAなどの自由電子レーザーを用いた方法が主流であるが、施設の使用時間が限られている事、タンパク質を大量に必要とする事、結晶化が必要である事が問題点として挙げられる。少量の試料で結晶化の必要がないクライオ電顕構造解析法はPSIIの中間体構造の解明に適していると考える。クライオ電子顕微鏡と時分割技術を融合した研究は世界的にも初の試みであり、今後の時分割解析のさきがけになると考えている。 既に、好熱性シアノバクテリアの培養と菌体からのPSII精製条件は確立しており、その方法を基に、良質な結晶ができる程の高純度、高酸素発生活性を有するPSIIが得られた。このPSIIサンプルを用いて、クライオグリッド作成装置Vitrobotでグリッドを作成した。PSIIの濃度やbuffer条件などを、クライオ電子顕微鏡で観察しながら最適化し、氷が薄く、粒子がイメージの中に満遍なく観察できるサンプルグリッドの作成条件を確立した。データ収集は、クライオ電子顕微鏡 FEI Titan Kriosを用いて行なった。PSIIのデータを56K, 75K, 96Kの倍率でそれぞれ収集した。データの解析はRelion3.0を用いて行なった。得られたマップの分解能を比較し、最適な条件を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PSIIのデータを56K, 75K, 96Kの倍率で、それぞれ2,596枚, 2,084枚, 4,237枚のイメージを収集した。イメージから、それぞれ、239,388粒子, 90,897粒子, 203,912粒子をピックアップして、Relion3.0で解析を行なった。その結果、分解能は56K, 75K, 96Kのデータからそれぞれ、2.34, 2.26, 2.26オングストロームのマップが得られた。分解能は75Kで頭打ちとなっており、96Kでは必要なイメージ数が多くなるため、今後は75Kでのデータ収集を行なうことにした。現在、モデルの構築と精密化を進めている。グリッドの作成条件、データの収集条件についてはほぼ確立した。また、予定をしていた2.5オングストロームを超えるマップを得ることに成功している。
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