出芽酵母ゲノム中では、CUP1遺伝子を含む2-kbのユニットが十数回縦列に反復している。我々は、CUP1にdCas9をターゲットすると、CUP1のコピー数が減少することを見い出した。このゲノム不安定性誘導機構の解明を目的に実験を行い、以下の成果を得た。 1)dCas9によるCUP1コピー数の減少は、ニコチンアミドによって加速された。この加速効果は、出芽酵母唯一のH3K56アセチル化酵素をコードするRTT109遺伝子に依存していた。ナノポアシーケンシングの結果、dCas9はCUP1アレイの短縮のみならず伸長も惹起できることが判明した。 2)dCas9をCUP1アレイの中心部に挿入したURA3カセットにターゲットすると、同カセットを欠失した5FOA耐性株の出現率が有意に上昇した。よって1分子のdCas9が結合するだけでCUP1アレイを不安定化することができることが示された。 3)dCas9によるCUP1アレイの不安定化は複製依存性であった。更に、2次元ゲル電気泳動法によって、dCas9結合部位周辺における複製フォークの停止が観察された。 4)遺伝子破壊株を利用した解析から、Replisome Progression Complexの構成因子であるCtf4とMrc1およびアクセサリーヘリケースRrm3が、dCas9によるCUP1コピー数減少に対して抑制的に働くことが示された。CTF4およびMRC1欠失株では2次元ゲル電気泳動で検出されるY-arc上の停止フォークスポットは減弱しており、複製フォークが不安定化したことの反映と考えられた。逆にRRM3欠失株では停止フォークスポットの増強が見られ、複製フォーク前方の障害物を排除できないためと考えられた。一方、RAD52およびRAD59の欠失株では、dCas9によるCUP1コピー数減少速度が減弱した。rad52欠失株を用いた相補実験からRad52はRad51非依存性にsingle-strand annealing活性を介して、この過程に関与することが判明した。
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