研究課題/領域番号 |
19K22399
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
星居 孝之 千葉大学, 大学院医学研究院, 講師 (20464042)
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研究分担者 |
金田 篤志 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (10313024)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | エピゲノム / 機能的重複 / 白血病 |
研究実績の概要 |
本研究ではMLL再構成型白血病において認められる異常なヒストンH3K4メチル化の原因となりうるH3K4メチル化酵素を同定することを目的としており、CRISPR/Cas9を活用した機能解析を計画した。まず、H3K4メチル化酵素ファミリー分子のメチル化酵素活性ドメインを標的とするsgRNAライブラリーを樹立し、解析を行った結果から、MLL再構成を有する白血病細胞株(MOLM-13細胞株、マウスMLL-AF9発現白血病細胞株、マウスMLL-AF9/NrasG12D発現白血病細胞株)の比較においても、細胞株毎で特定のファミリー分子への依存性が大きく異なることを見出した。この中で、マウスMLL-AF9/NrasG12D発現白血病細胞株においてのみ非常に高い依存性の認められるH3K4メチル化酵素に着目した。CRISPR/Cas9技術により、NrasG12Dを発現しないMLL-AF9発現白血病細胞株で同メチル化酵素遺伝子を破壊したシングルセル由来のクローン細胞株を樹立した。このノックアウト細胞株は他のメチル化酵素によってH3K4メチル化や白血病細胞の生存が維持されていることが予想されることから、CRISPR/Cas9を活用して、別のH3K4メチル化酵素ファミリー分子の破壊を試みた。その結果、ファミリー分子の中でも特に構造的な類似性を示す酵素に機能的な重複があり、MLL再構成型白血病細胞ではH3K4メチル化酵素の使い分けがなされていることが示唆された。各メチル化酵素への依存性を生み出す要因を明らかにするため、野生型の白血病細胞株、それぞれの遺伝子を破壊した細胞株、両者を破壊した細胞株の遺伝子発現プロファイルをRNA-seq法により解析し、MYCやE2Fがそれぞれの経路で制御されており、両者を同時に阻害することが相乗的な細胞増殖抑制効果を引き起こす要因であることが示唆された。上記の細胞株にて現在ヒストン修飾の変化について解析を進めており、遺伝子発現の制御がエピゲノムの制御に依存するかどうか明らかにする計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、CRISPR/Cas9技術を活用したスクリーニングから、MLL再構成型白血病細胞の生存に重要となり、かつその酵素活性が重要な働きを持つことが示唆されるH3K4メチル化酵素の絞り込みが進展した。さらにスクリーニングの結果から、機能的重複の一端を担うことが予想されるH3K4メチル化酵素を見出すことが出来た。CRISPR/Cas9技術により酵素活性ドメインを欠損した細胞株を樹立し、遺伝子発現への影響について次世代シーケンス技術により解析を行った。sgRNAベクターによるスクリーニングが機能したことから、より大規模かつ挑戦的な試みとして、複数の蛍光標識を組み合わせて、複数のsgRNAを活用した機能的かつ網羅的なスクリーニングを実施したが、短期的な遺伝子導入ストレスの影響と、培地中にサイトカインを必要とする特殊な細胞の長期的な大量培養による影響から、陰性コントロール群でも差が生じてしまい、正しい機能評価を行うことが出来なかった。スクリーニングにより同定された新しいH3K4メチル化酵素の機能については予定通り解析を進める一方で、複雑な機能的重複の大規模なスクリーニングによる解明については手法の変更や実験に使用する細胞株の変更が必要であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
最も有力な新規標的について遺伝子破壊細胞株を樹立が完了したことから、この細胞に追加で異なるファミリー分子を標的とするsgRNAを導入し、機能的重複の解明に向けたスクリーニングを実施する計画である。またシングルベクターから複数のsgRNAが発現するベクターバックボーンを利用して、複数のファミリー分子の同時破壊を実施する。スクリーニングによる機能的重複の解析に加えて、樹立した遺伝子破壊細胞株のエピゲノムについて、ChIP-seq解析を行い、実際にエピゲノムの制御を介した遺伝子発現の異常が誘導されているかどうかを検証する。
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