研究課題/領域番号 |
19K22404
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐甲 靖志 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (20215700)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 転写調節 |
研究実績の概要 |
細胞は機能を発揮する遺伝子の組み合わせを変化させて様々に変化する。遺伝子発現を制御しているのは複雑な分子複合体であるが、中でもスーパーエンハンサー(SE)は、染色体上に遺伝子転写因子・転写制御因子が高密度に集積した構造であり、集団的な遺伝子発現制御を行うことによって、細胞運命決定等において主要な役割を果たす領域であるとして提唱されているが、その実体は明らかでなく機能についても依然として多くの議論がある。SE研究のほとんどは細胞を破壊して取り出した遺伝子解析手法による。本研究では生きた細胞内でSEの実体を直視し、同一細胞での遺伝子発現と直接関連づけることを目標とし、免疫B細胞の分化に関わる遺伝子発現調節において、NF-kBが核内に作る集積点形成と遺伝子発現との関わりを明らかにする。 これまでに、NF-kBの核内集積点が、ヒストンのアセチル化を認識し転写コファクターと考えられているBRD4蛋白質と共局在し、ヘキサンジオールによって可逆的に解消することから、液-液相分離構造的性格を持つ転写開始点である可能性を明らかにしてきた。本年度はRNA-seqおよびRNA-FISHを用いて、Nf-kB集積点形成と遺伝子発現の関係を詳細に解析した。NF-kB下流には共同性や発現ゆらぎの大きい遺伝子転写が見られ、中でもCD83遺伝子の転写はNF-kB集積と相関して変動し、遺伝子解析の結果からもSE形成によって制御されていることを示唆する結果が得られた。詳細は進捗状況欄に記述する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
集積点形成と遺伝子発現の関係を詳細に解析した。1細胞RNA seqにより、抗B細胞受容体(BCR)抗体で刺激されたDT40細胞が、核内集積点の形成と同様にon/off的な転写応答を示し、集積点形成と転写で同様の刺激量に対する応答を示すことが明らかになった。この傾向はNFKBIAやCD83といったNFkB直下にある遺伝子で著しいが、BRD4阻害剤JQ1により、CD83の転写は阻害されるが、NFKBIAの転写は阻害されなかった。IKK-16によりNF-kBの各移行を阻害すると、NFKBIA, CD83ともに転写阻害され、CD83はNF-kB集積すなわちSEによって制御されるが、NFKBIAはSEを構成しないNF-kBの制御下にあることが示唆された。細胞間の転写量のばらつき(Fano因子)をRNA-seqおよびRNA-FISHで解析すると、いずれの結果もCD83のばらつきが大きく、SEに依存した共同性の高い転写応答が関係しているものと思われる。さらにCiceroアルゴリズム(Pliner et al. Mol Cell 2018)を用いてNFKBIAとCD83それぞれと他の遺伝子との、BCR刺激後の転写変動の相関解析を行ったところ、CD83と相関する変動は多数発見されたのに対し、NFKBIAでは見つからなかった。以上の遺伝子発現解析の結果はNF-kB集積により、CD83遺伝子近傍にSEが形成されることを強く示唆している。本研究はこれらの結果をとりまとめて、論文制作に取りかかる所に到達しており、順調に進捗したと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの1細胞イメージングと1細胞転写解析により、Nf-kB集積点が液液相分離構造的な性質を持つSE領域であり、その下流でCD83などNF-kB応答遺伝子の転写が高い共同性を持って制御されていることが明らかになってきた。本年度は感染症拡大による研究室への立ち入り制限などのため、研究の完成に至らなかったが、今後以上の結果を取りまとめて、論文発表を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症拡大による研究室への立ち入り制限などのために、研究経費の執行に遅れが生じた。次年度は、本年度終了しなかった研究のとりまとめを行う。経費は最終的な研究結果の確認実験のための消耗品購入と、論文発表費用として使用する。
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