ファージ(バクテリアに感染するウィルス)が内部に共生している細菌では、集団全体の1%程度の割合で細胞壁を失った細菌が出現することを我々は見出した。 細菌は細胞壁を失うと、細胞分裂や細胞融合性、物質の排出・取込み能、抗生物質耐性などにおいて、通常の細菌では持ち得ない性質と能力を発揮することが考えられるが、これまでに検証されていない。そこで、本申請課題では、その普遍性が示唆されながらも実態が明らかになっていない細胞壁を失った細菌の特性を明らかにすることを目的にする。 これまでの研究で、培養条件を最適化したところ、培養液中のほとんどの細胞が細胞壁を失っても生存できる系を構築した。さらに、多くの細胞では、細胞壁を完全に失ったわけではなく、その一部が残っている可能性が見出されている。本年度は、引き続き本菌の特性を解析した。その結果、通常の細胞に比べて特定の抗生物質に対する耐性が高いことが示唆された。本解析を行うにあたり、通常の細菌と細胞壁を失った細菌を見分ける手法の確立が必要であったため、ライブセルイメージング技術を用いて解析した。これにより、1細胞レベルで抗生物質耐性を定量できるようになった。これまでは主にグラム陰性菌を対象に解析を行ってきたが、さらにはグラム陽性菌においてもファージ遺伝子の発現によって細胞壁を失った細胞が出現することが確認でき、本現象の普遍性が示唆された。さらには、ファージ由来遺伝子以外にも細胞壁を失った細胞への変化を誘導できることが明らかとなった。これらの成果によって細胞壁を失った細胞の出現や特性に関して一定の知見が得られた。細胞壁を失った細胞を安定的に維持できるようになり、その解析が進んだ一方で、本菌の生理状態や増殖が開始される条件については今後とも研究が必要である。
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