研究課題/領域番号 |
19K22420
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山口 正晃 金沢大学, 生命理工学系, 教授 (60182458)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 棘皮動物 / 歩帯動物 / 放射線/歩帯 / FGFシグナリング |
研究実績の概要 |
半索動物(ギボシムシ)と棘皮動物(ウニやヒトデ)は、歩帯動物クレードを構成する姉妹群で、三体腔性(前-中-後体腔)の幼生を共有する。半索動物は幼生の体腔プランと外胚葉をそのまま成体へと引き継ぎ、それぞれ吻、襟、胴体腔とそれを被う外胚葉となる。一方、棘皮動物は、幼生の左側にできる成体原基の中で五放射体制をつくり、成体へと変態する。棘皮動物のこの特異なボディープランの進化は、未だに動物学の謎として残っている。棘皮動物の放射線(歩帯)は、水腔/左中体腔から伸長する放射水管とそれを覆う歩帯外胚葉からなる。本研究の目的は、羊膜外胚葉と水腔中胚葉の間の双方向のFGFシグナリングが歩帯を確立することを実証することによって、この謎を解くことである。 棘皮動物の成体原基形成は、幼生外胚葉から陥入する羊膜が水腔と接することによって始まる。しかし、その相互作用の分子機構はわかっていない。申請者による予備的実験は、(1) 羊膜外胚葉で自律的に発現するfgf8/17/18が原腸から水腔中胚葉を誘導するとともにfgfaを活性化し、(2) その水腔からのfgfaシグナリングが水腔/放射水管と接する外胚葉を歩帯外胚葉へと分化させる遺伝子(hh, otx)を活性化することによって歩帯が確立することを示唆している。 本研究では、CRISPR/Cas9システムによってfgf8/17/18をノックアウトしたヨツアナカシパン幼生の表現型を、WMISH法によるマーカー遺伝子発現と共焦点レーザー顕微鏡光学切片から再構築した幼生の三次元像の両面から解析することによって、上記の歩帯確立モデル (1) を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
棘皮動物の歩帯確立モデル1「羊膜外胚葉で自律的に発現するfgf8/17/18が原腸から水腔中胚葉を誘導するとともにfgfaを活性化する」を実証するため、ヨツアナカシパンを材料として、fgf8/17/18に対するguide RNAとCas9タンパク質を受精卵に共注入することによってfgf8/17/18をノックアウトした。注入胚において、水腔マーカーzicとそこでのfgfa発現が低下するだけでなく、歩帯外胚葉遺伝子(hh, otx)の発現も抑制された。 共焦点レーザー顕微鏡光学切片から幼生の三次元像を再構築した。対照幼生では、水腔が原腸から腸体腔的に幼生背側前方から後方に伸長し、その水腔から放射水管が五放射に展開した。さらに、放射水管IIIから三つ組の管足が形成された。一方、注入幼生では、原腸からの腸体腔形成が不全で、それに続く放射水管の伸長と管足の形成が阻害された。しかし、注入幼生から変態した稚ウニは対照とほぼ同様の管足をもっていた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の成果から、棘皮動物の歩帯確立分子モデル1「羊膜外胚葉で自律的に発現するfgf8/17/18が原腸から水腔中胚葉を誘導するとともにfgfaを活性化する」ことを示したが、fgf8/17/18ノックアウト幼生から変態した稚ウニは対照とほぼ同様の管足をもっていた。今後、fgf8/17/18に対する複数のguide RNAsを共注入することによってノックアウト効率を高めることを計画している。 さらに、歩帯確立分子モデル2「水腔からのfgfaシグナリングが水腔/放射水管と接する外胚葉を歩帯外胚葉へと分化させる遺伝子(hh, otx)を活性化することによって歩帯が確立する」を実証するためfgfaノックアウト実験を進める。
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