II) 機械学習によるシグナル活性と分子構造動態との関係性解明 これまでの画像解析技術では、高速原子間力顕微鏡により得られた生きた細胞表層の連続画像から、各アクチンフィラメントの時空間的情報を自動抽出するのが極めて困難であり、機械学習に必要な大量の学習データ(入力データ)として利用できないという問題があった。そこで、画像の局所毎にアクチンフィラメントの方向を潜在変数とした確率的生成モデルを構築し、アクチンフィラメントの存在とその方向を推定する機械学習法を開発した。その手法を実データへと応用することで、各アクチンフィラメントを明瞭に捉えることに成功した。その結果、これまで未知であったアクチンフィラメントの角度分布構造を発見するに至っている。 III) がん細胞におけるシグナル分子活性と表層骨格動態との関連性解明 細胞の力学応答経路ではたらくタンパク質の1つであるYAPは、Ras依存性のがんで機能することが知られている。YAPノックアウト細胞(MDCKおよびRPE細胞)の表層アクチンを高速原子間力顕微鏡で観察したところ、通常の細胞よりもアクチン線維の密度が高かった。このことは、原子間力顕微鏡を用いた力学測定で、ノックアウト細胞が高いヤング率を示したこととよく合致する。さらに、アクチン線維の増加が局所的なRhoAの活性化によるものであることを示すと共に、RhoAを活性させるグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)を同定することにも成功した。これにより、がん細胞におけるシグナル伝達因子とアクチンとの関係性を明らかにするうえで重要な知見である。
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