研究課題/領域番号 |
19K22423
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大澤 志津江 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (80515065)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 組織成長 / 細胞間相互作用 / 成長遅延 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
多細胞生物ではその発生過程において、種々の外的・内的撹乱を受けながらも、最終的には機能的な組織を形成しようとする頑健(ロバスト)な現象である。しかしながら、そのようなロバストな組織形成を実現する仕組みはほとんど分かっていない。我々は最近、幼虫期のショウジョウバエが内的・外的撹乱によって成長遅延を起こした際に、その遅延を補正する細胞集団挙動「細胞ターンオーバー(細胞死と細胞増殖による細胞の入れ替え)」が翅原基で誘発されることを見いだした(投稿中)。本年度は、個体の時間軸の変化によって細胞ターンオーバーが翅原基に誘発される機構を明らかにするため、個体の発生遅延を感知して細胞ターンオーバーを翅原基に誘導する遺伝子群を同定するRNA-seq解析を開始した。具体的には、(i) 野生型コントロール、(ii) 幼虫期に顕著な発生遅延を示すMinute変異体、および (iii) 複眼原基に腫瘍(進化的に保存されたapico-basal極性遺伝子scribbleに突然変異を導入した腫瘍)を誘導して発生遅延を引き起こした野生型 幼虫の翅原基の細胞に対してRNAseq解析を行った(近藤武史博士(京都大学大学院生命科学研究科)、井垣達吏博士(京都大学大学院生命科学研究科)との共同研究)(図1)。今後はRNAseqで得られたデータの解析を行うことで、発生遅延に呼応して発現変動する遺伝子群の同定し、引き続き、in vivo RNAiスクリーニングを2次スクリーニングを行うことで、細胞ターンオーバーに関わる遺伝子群を同定する。同定された遺伝子群の機能を遺伝学的実験および分子生物学的実験により明らかにすることで、細胞集団挙動を介した発生時間軸制御の分子基盤の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、個体の発生遅延を感知して細胞ターンオーバーを翅原基に誘導する遺伝子群を同定するために、(i) 野生型コントロール、(ii) 幼虫期に顕著な発生遅延を示すMinute変異体、および (iii) 複眼原基に腫瘍(進化的に保存されたapico-basal極性遺伝子scribbleに突然変異を導入した腫瘍)を誘導して発生遅延を引き起こした野生型 幼虫の翅原基の細胞集団をFACSにより分取してRNAを抽出、次世代シークセンサーNextseq500(イルミナ)を用いてRNAseq解析を行った。RNAseq解析を行う系を構築することは、個体の発生遅延を感知する分子機構を明らかにしていく上で重要な過程であり、その達成に成功できたという点で研究推進が順調に行われていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、RNAseqで得られたデータの解析を進め、さらに、(iv) 変態ホルモンEcdysoneを与える、あるいは、(v) インスリン様ペプチドdilp8の発現を抑制し、発生遅延を抑制したMinute変異体についても同様にRNAseq解析を行い、発生遅延に呼応して変動する遺伝子群を同定する。同定された遺伝子群に関して、細胞ターンオーバーに関わるものをin vivo RNAiスクリーニングにより同定し、個体の発生遅延を感知する分子基盤を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、個体の発生遅延を感知して細胞ターンオーバーを翅原基に誘導する遺伝子群を同定するRNAseq解析用のサンプル調整を中心に行った。RNAseq解析を行うための次世代シークエンスにかかる費用は、井垣達吏博士および近藤武史博士(京都大学)との共同研究として実施したため、当初予定していたよりも経費が削減できた。一方で次年度は、RNAseq解析により同定された候補遺伝子の2次スクリーニングおよび得られた責任遺伝子の機能解析を行う上で、相当量のショウジョウバエ系統の購入・作成・維持を行い、また免疫組織化学に使用する相当量の試薬類を購入する必要がある。個体の発生遅延を感知して細胞ターンオーバーを翅原基に誘導する遺伝子群をより網羅的に同定するため、当初予定していたよりもRNAseq解析を行ったサンプル数を増やしたため、その解析に使用するショウジョウバエ系統や試薬類が増加する。さらに、研究推進をより強力に行うため、技術補佐員の新規雇用を行う予定である。
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