研究実績の概要 |
多細胞生物ではその発生過程において、種々の外的・内的撹乱を受けながらも、最終的には機能的な組織を形成しようとする頑健(ロバスト)な現象である。しかしながら、そのようなロバストな組織形成を実現する仕組みは不明である。我々は最近、幼虫期のショウジョウバエが成長遅延を起こした際に、その遅延を補正する細胞集団挙動「細胞ターンオーバー(細胞死と細胞増殖による細胞の入れ替え)」が翅原基で誘発されることを見いだした。興味深いことに、この細胞ターンオーバーを遺伝学的に抑制すると、翅脈のパターン異常や形態異常等の種々の表現型が成虫翅に出現することが分かった。これらの事実は、個体の成長遅延を補正する細胞ターンオーバー機構の偶発的なエラーが多様な表現型を出現させ得る可能性を示唆している(#Akai, #*Ohsawa (# Equal contribution, *Co-corresponding author) et al., PLoS Genetics, 2021)。そこで、個体の成長遅延に応答して細胞ターンオーバーが翅原基に誘発される機構を明らかにするRNA-seq解析を実施した。具体的には、(i) 野生型コントロール、(ii) 幼虫期に顕著な発生遅延を示すMinute変異体、および (iii) 発生遅延を遺伝学的に抑制したMinute変異体 幼虫の翅原基で発現する転写産物をRNA-seqにより解析し、そのうち、細胞ターンオーバーに影響を与える遺伝子群を同定するRNAiスクリーニングを行なった結果、細胞ターンオーバーを翅原基に誘導する遺伝子群を複数同定することに成功した。今後は、同定された遺伝子群の機能を遺伝学的実験および分子生物学的実験により明らかにすることで、細胞集団挙動を介した発生時間軸制御の分子基盤の解明を目指す。
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