研究課題/領域番号 |
19K22424
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井垣 達吏 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00467648)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞競合 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
生体内で隣り合う細胞間で相対的に増殖能・生存能に優る細胞(勝者)が劣る細胞(敗者)を排除する現象が存在し、「細胞競合」と呼ばれ近年注目されている。細胞競合を引き起こす因子としては、リボソームタンパク質遺伝子のヘテロ変異や細胞間でのがん遺伝子Mycの発現差、apico-basal極性の崩壊などが報告されてきた。しかし、ここ数年の細胞競合研究の進展によって見えてきたことは、異なる因子によって引き起こされる細胞競合が必ずしも共通のメカニズムによって実行されているわけではないという事実である。そこで、細胞競合の全貌を理解するためにはまず細胞競合現象を根本から見直し、その共通原理と多様性を明らかにすることが必須であると考えた。そのために、細胞競合を引き起こしうる突然変異を網羅的に同定してこれを体系的に解析し、その共通原理と多様性を解明することを本研究の目的とした。具体的には、まず遺伝学的スクリーニングにより「細胞競合を誘起する」突然変異を網羅的に単離・同定し、次にこれらの細胞競合を正や負に制御する遺伝子群をモディファイヤー・スクリーニングおよび既知の細胞競合制御遺伝子の変異を用いて同定・分類して、細胞競合機構の体系付けと分子機構解析を進める。令和元年度は、これまでに見いだしたHel25E変異による細胞競合モデルを用いたモディファイヤー・スクリーニングとその後の遺伝学的解析を進め、タンパク質合成能の低下によって起こる細胞競合の共通メカニズムとしてオートファジー依存的な細胞死誘導機構を明らかにした。一方、これまでに行ったEMSスクリーニングにより単離された約120の細胞競合誘導変異を持つショウジョウバエ変異系統を用いて、既知および我々が最近見いだした細胞競合制御因子群の変異体を用いて細胞競合機構の分類・体系付けを進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ショウジョウバエ上皮をモデル系として用い、細胞競合を引き起こしうる突然変異を網羅的に同定してこれを体系的に解析し、その共通原理と多様性を解明することを目指す。これまでに、Hel25E変異による細胞競合モデルを用いたモディファイヤー・スクリーニングとその後の遺伝学的解析により、オートファジー依存的な細胞死誘導が細胞競合の共通メカニズムの一つであることを明らかにした。また、これまでに単離することに成功した約120の細胞競合誘導変異を持つ一連のショウジョウバエ変異系統を用いて、既知の細胞競合制御因子群の関与を網羅的に解析していくことで、細胞競合機構の分類・体系付けを順調に進めつつある。以上の経過から、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Hel25E変異による細胞競合モデルを用いて、敗者細胞において特異的にオートファジーが活性化して細胞死が誘導されるメカニズムを明らかにしていく。また、約120の細胞競合誘導変異を持つ一連のショウジョウバエ変異系統を用いて細胞競合機構の分類・体系付けを進め、細胞競合のシグナル伝達機構の共通部分および分岐したメカニズムの詳細を明らかにしていく。さらに、異なる細胞競合機構を持つ変異体を用いてそれぞれのモディファイヤー・スクリーニングを進め、異なる細胞競合の分子機構を明らかにすることで、細胞競合の共通原理と多様性の解明を目指す。
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