生体内で隣り合う細胞間で相対的に増殖能・生存能に優る細胞(勝者)が劣る細胞(敗者)を排除する現象が存在し、細胞競合と呼ばれている。細胞競合を引き起こす因子として、リボソームタンパク質遺伝子のヘテロ変異や細胞間でのがん遺伝子Mycの発現差、apico-basal極性の崩壊などが報告されてきた。しかし、近年の細胞競合研究によって、異なる因子により引き起こされる細胞競合が必ずしも共通のメカニズムによって実行されるわけではないことがわかってきた。そこで、細胞競合の全貌を理解するためにはまず細胞競合現象を根本から見直し、その共通原理と多様性を明らかにすることが必須であると考えた。そこで本研究では、細胞競合を引き起こしうる突然変異を網羅的に同定してこれを体系的に解析し、その共通原理と多様性を解明することを目的とした。具体的には、まずショウジョウバエ遺伝学的スクリーニングにより細胞競合を誘起する突然変異を網羅的に単離し、これらの細胞競合を正や負に制御する遺伝子群をモディファイヤー・スクリーニングにより同定・分類して、細胞競合機構の体系付けと分子機構解析を進める。令和2年度は、Hel25E変異による細胞競合モデルを用いたモディファイヤー・スクリーニングおよび遺伝学的解析を進め、細胞間のミトコンドリア機能の差が細胞競合を誘発するのに重要であることを見いだした。一方、これまでに行ったEMSスクリーニングにより単離した90の細胞競合誘導変異系統を用いて、細胞競合機構の分類・体系付けを進めた結果、半数以上の系統が転写因子Xrp1に依存して細胞競合を誘導するという興味深い結果を得た。
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