甲殻類は、脱皮により体の大きさが拡大するとともに、変形を行う。通常の脱皮ごとに徐々に変形するが、幼生から成体形態へ変化するときに大きく変形する場合がある。イセエビの場合、それが非常に極端であり、幼生は、完全に平面形状であるのに対し、わずか20分後に完成する変態後形態は、完全に3次元のエビ形態である。この極端な変形の原理を解明することを目的とする。 イセエビの場合、まず、飼育できる環境が非常に限られているという問題がある。研究開始時では、世界で唯一、三重県の水産研究所においてのみ、安定した飼育環境が存在したため、共同研究関係を確立して、現地で飼育、変態の観察、サンプルの調整を行った。また、得られたサンプルは、阪大の研究代表者の研究室で、電顕、マイクロCTにより形態観察を行った。 一つ目の成果は、脱皮時の動画撮影に成功したことである。脱皮時においては、まず、幼生の肢や目などの長い突起部分の退縮から始まり、次第に、頭部、胸部の外縁がクチクラからはがれて退縮。最後に、胸部の背面に空いた穴から全身が脱出する。この過程は、陸上節足動物のクモの脱皮に非常に似ている。 2つ目の成果は、電顕により、脱皮直前と直後の表面形態が解ったことである。平面上の形態が短時間に3Dに変形するには、変形前に、表皮シートに皺構造がある可能性が考えられたが、そのようなものは存在せず、局所的に起きる異方性の収縮が、変形の物理的な要因であることが解った。また、ローカルな収縮のマップを作成することができたので、変形のための、おおよその原理を推定することができた。
|