研究実績の概要 |
近年の線虫などのモデル生物を用いた遺伝学的解析によりいくつかの進化的に保存された寿命延長経路が明らかとなってきている。最近、これらすべての経路で細胞内分解システムであるオートファジーの亢進がみられ、またこのことが寿命延長に必須であることから、オートファジーが寿命延長のマスターレギュレーターとして注目され始めている。しかし、どの組織のオートファジーが寿命延長に重要なのか、オートファジーの活性化がどのように寿命延長に寄与するのか、等の本質的な問題は未解明である。興味深いことに、最近我々は、線虫の神経系でオートファジーを活性化させた時に最も効果的な寿命延長が見られることを明らかにした(Nakamura et al., Nat Commun, 2019)。このことは神経系によるオートファジー亢進がシステミックなシグナルを介して全身の老化を制御していることを示唆しており、本研究ではこのシグナルネットワークの詳細を明らかにする。本研究では、神経系でオートファジー制御因子のノックダウンや過剰発現個体を行なった個体を用いてトランスクリプトーム解析を行ない、神経系のオートファジーの下流で発現変動する候補因子を得た。RNAiによるノックダウンと生存を指標としたスクリーニングから神経系および神経系以外の組織で働く新規の寿命制御因子を同定した。これら因子の詳細な作用機序を進め、神経系オートファジーを起点として個体の寿命を制御する新たなシグナルカスケード見出すことができた(論文投稿準備中)。今後はこれら見出したシグナルカスケードが哺乳類でも保存されているかさらに研究を展開していく予定である。
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