研究課題
本研究では、脊椎骨の癒合を奇形発生のモデル系として、脊椎骨の原基である体節の細胞の集団的振る舞いに着目することで奇形・形態異常が惹起されるメカニズムの解明を試みる。脊椎骨は発生中期の分節構造である体節から分化 する。体節は多数の細胞が集まったものであるが、ひとつの体節の前側半分と後側半分マーカーでは明確に区別される。前側の細胞は細胞塊を作り、隣の体節の後側の細胞塊と合わさることにより1つの脊椎骨が形成される。したがって1つの体節の前側と後側の境界が2つの脊椎骨の間に相当するので、前側と後側の細胞が入り混じっていると、細胞塊どうしの分離が不完全になり、脊椎骨の癒合が生じると考えられる。これまでに妊娠マウスにバルプロ酸を投与すると胎仔に体節形成異常が見られ、新生マウスで脊椎骨に癒合などの奇形が生じることを我々は明らかにしてきた。体節形態異常の位置と脊椎骨の癒合の位置は、バルプロ酸投与のタイミングに依存して変化することを見いだし、バルプロ酸の作用点が未分節中胚葉であることを明らかにした。また、細胞レベルの遺伝子発現の同調性を解析し、バルプロ酸が未分節中胚葉において細胞間の振動遺伝子の発現の同調性を乱すことが体節の形態形成異常、脊椎骨の奇形を引き起こすことを明らかにした。さらにNrarpノックアウトマウスでは、バルプロ酸投与による振動遺伝子発現の同調性の乱れが大きいために、体節形成異常、脊椎骨の奇形の範囲が広くなることを明らかにした。これらのことから本研究で我々は奇形・形態異常の惹起メカニズムに細胞間での遺伝子発現の同調性が関与することを明らかにした。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Saudi Journal of Biological Sciences
巻: 29 ページ: 1919~1927
10.1016/j.sjbs.2021.11.056