研究課題/領域番号 |
19K22437
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
酒井 則良 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 准教授 (50202081)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 生殖系幹細胞 / 全胚移植 / 細胞増殖阻害因子 / ゼブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
生体組織は胚性期に未分化細胞により器官原器が形成され、加齢過程を経て最終的な成体の組織へと成熟する。多くの成体組織は少数の成体幹細胞と多数の分化型細胞により構成され、胚性期の未分化細胞により構成された器官原器とは、細胞数や細胞種、さらに形態的にも大きく異なる。したがって、組織の微小環境も加齢に伴い質的に変化するものと予想されるが、その実体はほとんどわかっていない。応募者らは、ゼブラフィッシュにおいて胚をまるごと成体皮下に移植すると、血管が移植胚と繋がり胚が成長すること、多くの移植胚成長個体で心臓、肝臓、生殖巣の形成が阻害されることを見つけた。興味深いことに、宿主から生殖細胞を除去すると移植胚の生殖巣形成が回復した一方で、心臓や肝臓形成への阻害効果は維持されていた。このことは、成体組織には特異的な微小環境が存在すること、成体の生殖組織で恒常的に産生される生殖細胞制御因子が胚の未分化生殖細胞の発達に特異的に重篤な影響を及ぼすことを示している。 本研究では、成体の生殖組織で産生され、血液を介して胚の未分化生殖細胞の発達を阻害する負の制御因子の解明を目的として、精原幹細胞のみ精巣を持つ宿主を作製し、ゼブラフィッシュの全胚移植法を用いて初期胚を皮下移植し、それらの組織間の相互作用の解析を進めた。その結果、分化型生殖細胞を持つ組織が生殖系幹細胞の維持もしくは増殖に負の影響を及ぼす可能性が見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
移植胚の生殖巣形成阻害は宿主成体の生殖巣に生殖細胞によって引き起こされることが明らかとなっている。そこで、どの発達段階の生殖細胞が宿主生殖巣に存在するときに阻害効果が起こるのかを特定することを目的に、精原幹細胞のみが存在する宿主の作製を進めた。meioc-/-変異体は生殖系幹細胞の分化に異常を示し、その精巣には精原幹細胞のみが存在する。初期胚を移植するための宿主として、免疫不全系統rag1-/-とmeioc-/-変異体を交配して、rag1-/-とmeioc-/-の二重変異体を作出した。この二重変異体に野生型の初期胚を皮下移植し、2ヶ月後に、移植胚の精巣と宿主の精巣の発達状態を調べた。得られた二重変異体が少なかったため、まだ例数は少ないものの、宿主の精巣が著しく退縮していることが認められた。移植胚は正常に発生しており、現在、その精巣の発達状況を解析中であるが、精巣が正常に発達していることが確認できれば、移植胚精巣の発達は精原幹細胞のみの宿主からは影響を受けず、逆に移植胚で発達した精巣の分化型生殖細胞の影響を宿主の生殖系幹細胞が受けた可能性が推測される。これは分化型生殖細胞に由来する未分化生殖細胞の発達阻害因子という、本研究の仮説を支持するものである。
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今後の研究の推進方策 |
まだ、例数が少ないため、今後さらに同様の移植実験を進めて、移植胚の精巣の発達状況と宿主の精巣の退縮状況に相関があるかを統計的に検証する。必要な二重変異体は十分量取れており、現在、飼育中である。その後、正常精巣と生殖系幹細胞のみの精巣に対して次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を進める。正常精巣においてのみ発現しているRNAの中から、塩基配列情報をもとに分泌型因子の遺伝子を選び、正常精巣組織に対するin situハイブリダイゼーションを行う。そして、分化型生殖細胞もしくはその周辺で発現するものを絞り込み、その候補遺伝子のcDNAをXenopus EF1aプロモーターに繋いでゼブラフィッシュセルトリ細胞株ZtA6-12細胞で強制発現させる。ゼブラフィッシュでは精原幹細胞培養系が樹立できており同一の条件で培養可能なため、セルカルチャーインサートで精原幹細胞を培養して、遺伝子導入したZtA6-12細胞との共培養実験を行い、精原幹細胞への増殖阻害効果を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析に必要なゼブラフィッシュ二重変異体の最初の世代の受精卵が少なく、予想よりも少ない数で解析を進めたため、試薬等の購入が当初計画より少なくなった。次の世代の受精卵は十分に取れており、今後は順調に解析できるため、次年度使用額は引き続き試薬等の購入に充てる。
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