本研究では、加齢に伴う生体組織微小環境の質的変化の一端を解明する目的で、ゼブラフィッシュにおいて胚全体を成体皮下へ移植する全胚移植法を用いて、異なる発達段階の精巣組織の相互作用を解析した。既に、移植した胚は成体と血管系を共有して成長すること、宿主生殖細胞の影響により移植胚の生殖巣形成が阻害されることが認められている。すなわち、成体組織の微小環境で産生される生殖細胞制御因子が胚の未分化生殖組織の発達に重篤な影響を及ぼす可能性を示している。そこで、どの発達段階の生殖細胞が宿主生殖巣に存在するときに阻害効果が起こるのかを特定することを目的に、生殖幹細胞分化異常のmeioc変異体を用いて精原幹細胞のみが存在する宿主の作製を進めた。免疫不全系統rag1-/-と交配して、rag1;meioc二重変異体を作出し、その皮下に野生型初期胚を移植した。2ヶ月後に、移植胚と宿主の精巣を調べたところ、移植胚精巣は正常に発達したのに対して宿主精巣が著しく退縮していた。この結果は、移植胚精巣の発達は精原幹細胞のみの宿主からは影響を受けず、逆に移植胚で発達した精巣が宿主の生殖幹細胞に影響を及ぼしたことを示している。すなわち、加齢した精巣が未熟な精巣に影響を及ぼすのではなく、分化型生殖細胞が未分化な生殖細胞の増殖に影響する可能性が示された。そこで、分化した卵母細胞が未分化な生殖細胞に及ぼす影響の解析を進めた。ゼブラフィッシュからは未発達の卵母細胞を必要量得ることが難しかったため、同じコイ科のホンモロコから卵母細胞を用意し、生殖幹細胞が過増殖した肥大化精巣(meioc変異体)と組み合わせて再集合塊を作製し、移植を行った。2ヶ月後、移植片を解析したところ、肥大化が認められ、生殖幹細胞の過増殖は抑えられていなかった。現在、異種間の影響や組み合わせる細胞数の比を考慮して、再検証を進めているところである。
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