研究課題/領域番号 |
19K22438
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
金井 雅武 基礎生物学研究所, オルガネラ制御研究室, 特任助教 (30611488)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | ヒマ / 乾燥耐性 / 高温耐性 / 蒸散 / プロトプラスト |
研究実績の概要 |
ヒマは蒸散を迅速かつ厳密にコントロールすることで高温・乾燥地域においても高い生産性を示すと考えられる。ヒマ葉の気孔直下の海綿状組織には、他の植物には見られない特殊な細胞(バルブ細胞)が観察されており、このバルブ細胞の機能解析を進める。 2021年度に確立した方法を用いて、高純度のバルブ細胞の精製を行った。屋外圃場及び人工気象器で栽培したヒマからバルブ細胞を精製した。精製したバルブ細胞画分を顕微鏡観察により純度を比較したところいずれも高い純度であったものの、屋外で生育させたヒマから精製された細胞は人工気象器由来と比較して4倍ほど高い濃度のバルブ細胞が見られた。この結果は屋外圃場で生育させたヒマは人工気象器で栽培されたヒマよりもバルブ細胞を発達させていることを示唆している。屋外圃場の環境は人工気象器と比較して過酷であり、より厳密な蒸散制御が要求されると考えられる。これよりヒマは環境に応じてバルブ細胞の数をコントロールしていると考えられ、バルブ細胞の大量調整には気温の時期に屋外圃場で栽培した植物体が適していることが明らかとなった。一方、屋外圃場、人工気象器由来のバルブ細胞の形態を比較したところ、形やサイズの違いは見られなかったため、ヒマは環境に応答してバルブ細胞の数をコントロールしているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、C3植物でありながら極めて優れた高温・乾燥耐性を有するヒマの葉において見いだされたバルブ細胞の機能解析である。未知の細胞であるバルブ細胞の機能解析には、遺伝子発現およびタンパク質発現プロファイルを取得することが不可欠であり、多様な細胞集団である葉から、バルブ細胞を濃縮する必要がある。令和4年度は昨年度の成果を基に、大量調整に向けて屋外圃場と人工気象器で栽培した植物体の比較を行った。この結果から、屋外の過酷な環境で生育した植物体からはたくさんのバルブ細胞を調整できることが明らかとなった。これより屋外圃場を使用した大量のヒマ新葉収穫を目指したが、新型コロナウイルス感染防止策のための活動制限と天候不良の影響が重なってしまい、適切なタイミングでの収穫が困難であった。これより、遺伝子発現およびタンパク質発現プロファイルの取得に向けた栽培について遅延が生じている。これにより、本研究は当初の計画よりも若干の遅延が生じているため、「(3)やや遅れている」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、バルブ細胞の機能解析に向けた遺伝子発現、タンパク質発現プロファイル取得に向けた大量調製とその解析を計画している。令和4年度の経験を活かし、屋外圃場において複数回の収穫を可能にする栽培計画とした。確立した方法を用いて、トランスクリプトーム解析およびプロテオーム解析を行うために必要なサンプルの大量調整を行う。大量の植物サンプルから高純度の画分を調整し、精度の高いオミクスデータを取得する。加えて、他の植物や組織との比較解析を行い、ヒマの高温・乾燥耐性機構の一端を担うと考えられるバルブ細胞の機能を明らかにするための基盤データを取得したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染防止対策による活動制限により、栽培およびサンプル調製に遅延が生じている。そのため、令和4年度に予定していたオミクス解析の実施まで至らなかったため次年度使用額が生じた。遅延している実験については、栽培およびサンプル調製を効率化し、令和5年度に実施する。そのため全体の使用額に変更は生じない。
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