研究課題/領域番号 |
19K22441
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
下向 敦範 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 専門職研究員 (00442971)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | mRNAターゲティング / Cas13 / 分子スイッチ |
研究実績の概要 |
生体を構成する多様な細胞群は、多くは遺伝子発現の違いによって識別が可能である。これらの違いを捉えるのに、ミニプロモーターやレポーターなどのゲノムへの遺伝子組換え技術利用されてきた。近年、CRISPR/Cas9などの簡便なゲノム編集技術の普及により、様々な種で遺伝子組み替え操作が可能となってきた。しかし、DNAをターゲットとする場合、不可逆的にゲノムに変異を生じる可能性を排除することはできない。そこでRNAをターゲットとする技術が注目されつつある。Cas13酵素群は、ターゲットに相補的なガイドRNA(gRNA)配列を介して、狙ったmRNAに結合し作用するDNA編集に利用されるCas9のRNA版である。Cas13の不活性型は、狙ったmRNAに結合する事が可能であり、mRNAの編集や、可視化に利用されている。そこで、二つのCas13に分割した転写因子を融合し目的のmRNAの存在によりスイッチをオンする分子の開発を試みた。 スイッチを構成する分子として、自己会合能の低い出芽酵母のVMAインテイン、転写リークの少ないTetON変異体、分割して再構成すると核移行シグナルとして機能するsplit NLSを用いて、二つに分割した転写因子部分を構築した。これらを3種類のCas13dタンパク質のN末または、C末に融合させ、核外移行シグナルよって再構成前は転写因子として作用しないように設計した。これらをgRNAの有無の条件でTetレポーターの発現を指標に評価を行った。 予想されたようにgRNAがなくてもレポーターの活性が見られた事から、非特異的に転写因子の再構成が起きていると予想された。しかし、全く活性が無ければスイッチの設計の再考が必要だったが、スイッチ部分の構築のステップはクリアしたと考えられる。これから如何に非特異的な活性を下げていくのかに焦点を当てて、研究を続けてゆく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
転写因子TetONを再構成する部分の分子の選定、設計、それらのソースの取得とDNA構築に想定より時間がかかり、実際に活性を測定する段階に到るまでに時間を要してしまった。また、新型コロナウイルスの感染拡大により、所属機関のロックダウンが実施され、継続的に培地交換や植え継ぎの作業が必要な培養細胞でのアッセイ系の立ち上げを延期せざる得ない事態になり、構築したスイッチ部分のアッセイとシステム全体の評価系の実験が大幅に遅れることとなった。 しかしながら、ロックダウン前に、直前まで入手可能であったマウス胎児へのエレクトロポーレーションを用いたin vivoアッセイにより限定的であるが、システムの評価をある程度可能とする実験データを得ることができた。 その結果、当初予想した通り、二つに分割したスイッチを導入するだけで、レポーターからのリーク的な発現が確認された。この事は、逆を返せば、二つに分割された転写因子の再会合が上手くいっているとも考えられた。また、ターゲットmRNAに対するgRNAを導入した場合、リーク以上のレポーターの発現が見られるか確認したが、全体的に大きな違いは観られなかった。しかしながら、詳細に解析したところ、弱いレポーターの発現がgRNAの有無に伴って、上昇している事が確認された。今回、3種類のCas13dタンパク質について、解析を行なったが、gRNA依存的に発現の変化がみられたのは、CasRXのみで、他のEsCas13d, RspCas13dについては、殆どの違いが判らなかった。これらの結果は、哺乳類の細胞で、実用的な活性を持っているのがCasRXだけであるとの報告が多数ある事とも一致する。強い発現を伴うリークに関しては、Cas13タンパク質は、哺乳細胞内で凝集しやすい事が報告されているので、非特異的な分子の近接化がリークの主要因ではないかと推察される。
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今後の研究の推進方策 |
限定的なデータから、これから解消しなければいけない課題として、非特異的な活性の抑制、哺乳類の細胞で活性のあるCas13dまたは、他のRNA結合型のCasタンパクとの組み合わせを検討していくと事が必要であると考えられる。また、今後、新型コロナウイルスの感染拡大による所属研究所のロックダウンの有無に関しては、依然不透明であり、再ロックダウンとなった場合に備えて、実験の計画を変更せざる得ないと考えられる。具体的には、継続的な維持管理が必要な培養細胞形でのアッセイ系の構築について、準備しつつも、マウスを使ったin vivoのアッセイをメインに行なっていく事にする。理由としては、あくまで本研究は、in vivoでの利用を目的としており、培養細胞だけで利用できても、他の手法と比べて、大きなアドバンテージがあるわけではなく殆ど意味を見出さないからである。一方で、どうしても多くの数を条件検討をするという点においては、大きく後退する。そこをカバーするために、全体の研究計画の延長の可能性も検討する。また、RNAをターゲットするCasタンパク質に関しても、実際にin vivoに適用可能なものは、世界的な競争によりかなり選別されてきている。その為、実際に検討する組み合わせは、爆発的に増えないと考えられる。 今後の方針としては、gRNA依存性をより明確に示すようなRNAターゲット型Casタンパク質の組み合わせての選別と、非特異的なスイッチ部分の再構成を分割したスイッチ分子のそれぞれの局在を詳細に調べる事により、適切な場所に局在化させたり、凝集などの非特異的な局在異常がないか検討していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
スイッチ部分のDNAコンストラクションに想定より時間がかかってしまい、次の培養細胞系の実験のアッセイシステムの構築が遅れたため、購入予定であったインキュベーターの購入は、当該年度の購入に間に合ったものの、その他必要な、画像解析用のPCや培養細胞用の試薬の購入が次年度になってしまい、予算の使用額が計画とは異なってしまった。また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、次年度に予定しいた研究計画も、所属研究所のロックダウンに伴い、大きく遅れてしまった。くわえて、実験に必要なDNAリソースは、海外からの機関の供与に依存しているが、今の所、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、分配の再開の目処はたっていない。これらのことを踏まえて、所属研究所のロックダウンが再び行われるかどうかは、未だに不透明である。また、アッセイ系の基盤を培養細胞系から、マウスを使用したものへと計画を変更することも考えており、その場合、研究期間全体の延長も考えている。そのため、研究費の使用に関しても、来年度への分配も考慮しながら、柔軟な使用を考えて行く予定である。
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