研究課題/領域番号 |
19K22450
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
浅見 崇比呂 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (10222598)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 左右性 |
研究実績の概要 |
螺旋卵割は、前口動物を二分する大系統の一つ(螺旋/冠輪動物)にユニークな発生様式である。左右逆に発生するか否かが割球配置の極性に 依存する。典型的な螺旋卵割を行う巻貝には、交尾して体内受精するものと、交尾せず放精放卵するものがある。前者は、交尾器が体の側面に あるため、左右逆に発生すると、交尾器の位置が左右逆になる。そのため逆巻(内臓逆位)は、野生型(多数派)との交尾が難しく、配偶上不利である。にもかかわらず、逆巻の種がくり返し進化した。対して、サザエなどの巻貝や、他の螺旋動物は、放精放卵するか、交尾器を正中線 にもつため、左右反転しても配偶上支障がない。ところが、内臓逆位の種・系統は進化していない。本研究の目的は、螺旋卵割の左右極性に顕在する量的変異に着眼し、このパラドクスを解決する実験基盤を開拓することにある。右巻種と左巻種の野生型は、左右真逆に卵割し、奇形発生しない。対して、どちらの種でも、突然変異に由来する逆巻変異体は、孵化前の奇形死亡率が高いため、集団に存続できない。これらの変異胚に特徴的な形態形成と死亡率の関係を統計的に検証するために必要となる野生型系統、交雑系統、人為選抜系統を作出するための繁殖実験を実施した。野生型(右巻)集団と逆巻変異系統の殻形態は統計的に異なる。交雑系統の確立により、集団の遺伝的背景の差異に起因する形態変異を統計的に取り除くことを可能にした。初期発生における左右極性が系統内個体間でどのように量的に変異するかを検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有肺類に実在する右巻種群と左巻種群は、発生の左右極性が反転しており、その単一の原因遺伝子の変異が左右逆巻の子孫系統の進化をもたらした。しかし、右巻種及び左巻種で得られた突然変異に起因する逆巻変異体は発生異常を伴う。その原因を理解するための実証研究の基盤をこれまでに固めた。初期胚の形状を測定し、個体間の量的変異を統計解析する手法により、系統間の形状の差異を検出ことを可能にした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立した実験室系統から得られる初期胚を用い、初期胚の卵割の左右極性を量的形質として捉え、その量的左右性の統計解析を遂行する。この初期胚の量的表現型がもたらす孵化前の生存率の変異がどのような発生異常に起因するのかをあきらかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
陸生巻貝の左右変異モデル系において形態形質の変異が遺伝標識として実用可能になったため、自家受精と他家受精に由来する個体を識別するための遺伝子解析が不要になった。一方、淡水生巻貝の左右変異系統には形態標識変異を適用できないことから分子マーカーによる繁殖様式の判別が必要であり、このための実験費用として当該助成金を用いるにあたり、翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する。
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