個体発生における形態形成のプロセスを経て実現される形態形質は個体間で同一であることはないに等しい。生物の系統(種・集団)の間で異なる発生形質についても同様である。では、現時点で観察される、系統(グループ、種、集団)の間で異なる発生形質がどのようにして出現・進化したのか。この問題に正しく答えるには、発生形質・システムが異なる祖先系統、あるいは新たな発生形質をもつ系統がどのようにして分岐したのか、すなわち、現在の発生形質をもつ集団(種・系統)がどのようにして出現(分岐)した(できた)のかに答えなくてはならない。本研究の挑戦的研究としての意義は、この盲点を克服する視座を開拓し、発生進化の駆動機構への新規のアプローチに挑むことにある。螺旋卵割は、前口動物を二分する大系統の一つ(螺旋/冠輪動物)にユニークな発生様式である。すなわち、螺旋卵割という発生様式が進化したのは動物界で一回のみである。受精卵の最初の細胞分裂から、時計回りまたは反時計回りに分裂する。この螺旋卵割の左右極性を決定すると現在目されている遺伝子に欠損変異が生じると、この割球配置が個体間で大きくばらつくことが明らかである。それらの個体のほとんどは、初期胚の段階で形態異常により死亡する。したがって、この欠損変異は集団から生存淘汰される。本研究により、欠損変異個体間にみる著しい初期胚の形態形質のばらつきに依存して初期胚の生存率が著しく変化する事実に着眼し、その結果として生じる生存淘汰が左右極性進化を駆動する機能を担いうるかを検証する方法論を開拓し、当該のメカニズムを経験的に立証する実験システムを開発した。
|