研究課題/領域番号 |
19K22453
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石川 由希 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (70722940)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | フェロモン選好性 / ショウジョウバエ / 神経接続 |
研究実績の概要 |
行動的な生殖隔離の獲得は、種分化や性選択を介してさらなる形質進化を駆動する。本研究は、フェロモン選好性の変化によって生殖隔離を実現したキイロショウジョウバエとオナジショウジョウバエをモデルに、この選好性の進化をもたらした情報処理プロセスの特定を目指す。 本研究の提案する「シナプス獲得/喪失仮説」を検証するために、遺伝学的ツールの整備されていないオナジショウジョウバエと同様のフェロモン選好性を持つF1雑種をオナジ型フェロモン選好性のモデルとして用いた。当該年度は、フェロモン特徴抽出回路を構成する7種のニューロン群間のシナプス接続をGRASP法を用いてキイロショウジョウバエと雑種で比較した。その結果、特定の神経接続のみがF1雑種において失われていることが示唆された。一方近年、GRASP法には、神経接続以外でGFPが再構成される偽陽性が報告されている。今回特定した神経接続の差異が偽陽性に起因するものではないことを確かめるため、特定の神経接続のシナプス前細胞とシナプス後細胞を標識し、観察するtwo-TagEM法を用いた。当該年度は、本研究で特定した神経接続のシナプス前細胞のミトコンドリアとシナプス後細胞の細胞膜にペルオキシダーゼを発現させる系統を確立し、これらを同時に標識観察できる条件を検討した。様々な条件を検討した結果、これら2種類の細胞を同時に標識できる条件を確立することができた。今後はこの条件を用いて特定した神経接続を透過電子顕微鏡レベルで観察することを目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、本研究の提案する「シナプス獲得/喪失仮説」を検証するために、GRASP法を用いて神経接続の比較を完了させることができた。その結果、オナジ型のフェロモン特徴抽出回路において特定の神経接続が喪失している可能性が示唆された。これをさらに確かめるために、特定の神経接続を透過電子顕微鏡レベルで観察するtwo-TagEM法を当該研究室で新たに立ち上げ、着目している神経接続を構成するシナプス前細胞とシナプス後細胞を同時に標識する条件を確立できた。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの研究で、GRASP法により「シナプス獲得/喪失仮説」を検証できる標的である神経接続を特定することができ、またこれを確認するためのtwo-TagEM法についての条件検討も完了した。今後は、この条件を用いて、GRASP法で特定された神経接続を透過電子顕微鏡レベルで確認する。さらに、この神経接続の発生過程を観察し、キイロ型とオナジ型の神経接続の違いがどのような発生機構の歳によって生じるのかを特定する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品費に関して、申請時はtwo-TagEM法に用いる透過電子顕微鏡のサンプル作製の外注費やビブラトーム購入をする予定であったが、サンプル作製を所属大学内の設備の共同利用によりこれらの必要がなくなった。次年度、神経接続の発生過程を観察するための蛍光顕微鏡関連物品の購入等に充てる予定である。 旅費に関しては、透過電子顕微鏡によるサンプル観察のために共同研究者の所属する国立遺伝学研究所に出張する予定であったが、所属大学の医学部にて観察する実験系を立ち上げることができたため、出張を取りやめた。また、他研究費を用いた学会参加により、副次的ではあるものの十分な情報収集を行うことができたため、本年度は使用しなかった。次年度、国内/国際学会において情報収集/研究発表を行うために使用する。 人件費に関しては、適任者がいなかったため、本年度は雇用しなかった。次年度改めて募集する予定である。 その他は、設置済みの機器の修理等に充てる予定であったが、修理の必要がなかったため使用しなかった。次年度も同様に修理に充てる予定である。
|