本研究課題は、行動的な生殖隔離の進化をもたらす神経機構を解き明かすために、近縁種キイロショウジョウバエとオナジショウジョウバエのフェロモン選好性の分化の神経機構の解明を目指した。昨年度までの研究において、オナジショウジョウバエと類似したフェロモン選好性を示すF1雑種において、特定のシナプス接続が失われていることが示唆された。そこで最終年度は、オナジショウジョウバエにおいてシナプスの喪失が起こっているかを検証するために、GFP再構築法を行うための遺伝学的ツールの導入を行った。まず昨年度までに得られた標的遺伝子近傍へのattPノックイン系統の標識パターンを調べた。その結果、目的遺伝子の発現を模倣するような標識パターンを示すことが確認できた。また、attPノックイン系統に関して、標的遺伝子近傍のゲノムをシークエンスしたところ、狙い通りの位置にノックイン出来ていることが確認できた。次に、phiC31システムを用いてattP配列へのLexA配列の導入を試みた。これまで、ノックインベクターとphiC31インテグラーゼmRNAの胚への注入を2回実施したが(それぞれ約200胚)、LexA配列導入個体は得られていない。phiC31インテグラーゼの効果が弱い可能性を考え、現在phiC31を発現するトランスジェニック系統を作成中である。これが確立し次第、再度LexA配列の導入を行う。LexA系統が得られたら、オナジショウジョウバエにおいてGFP再構築法を行い、シナプス接続の喪失が起こっているのかを検証する。さらに、2種のフェロモン選好性の分化に寄与する可能性のある味覚ニューロンの機能を種間比較した。光遺伝学を用いて当該ニューロンを人為的に活性化すると、どちらの種においても求愛が抑制されたことから、当該ニューロンの求愛抑制機能は種間で保存されていることがわかった。
|