研究課題/領域番号 |
19K22454
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平崎 鋭矢 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (70252567)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 手機能 / 無標点運動解析 / バイオメカニクス / 圧分布解析 |
研究実績の概要 |
ヒトの繁栄を支える「手」の機能の進化については、驚くほどわかっていない。その理由のひとつは、歩行器官としての手の働きに関する情報の欠如である。手はその進化の大部分において物を操作するよりも、足とともに歩行を担う器官として働いてきた。したがって、手の機能の進化を理解するには、歩行と対象物の操作という2つの異なる役目を果たすために手が取ってきた戦略を探ることが不可欠である。本研究では、ヒトとヒト以外の霊長類が多様な課題を遂行する際の手指の動きについて、無標点3D運動分析法と圧分布分析法を用いた生機構学的解析を継続中である。 2020年度は、2頭のニホンザル(成体オス)を被験体として用い、彼らが床上四足歩行、樹上環境を模した水平ポール(直径49mm)上四足歩行、垂直木登り(直径49mmのポール上)をする際の手指の動きとその圧分布計測を行った。分析には、高精度ビデオ映像と圧分布計測シート(Bigmat 1/4、Nitta社)を用いた。その結果、手指のロコモーションへの貢献は、ロコモーションモードによって異なり、水平ポール上歩行では他の2モードに比べ拇指の役割が大きくなること、一方、垂直木登りでは拇指よりも他の4指の役割が大きくなることが判明した。垂直木登りでは、拇指はほとんど推進力を発揮していなかったと考えられる。床上四足歩行時には、体重の大半は指というよりも中手指節関節付近のパッドによって支えられていた。拇指の役割は水平ポール上歩行時に比べ小さかった。これらの結果は、第73回日本人類学会大会(2019年10月、佐賀)で発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
データ分析を補助してもらうアルバイトの雇用がうまく進まず、実験は行ったものの分析に遅れが生じている。2020年度は雇用の目途もたっており、遅れは挽回できると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年3月までに「研究実績の概要」で記した実験に加え、マニピュレーション時の手指の動きについても、ニホンザル、オマキザルを被験体とした実験を行った。しかし、分析補助者の雇用がうまく進まず、データ分析が遅れ気味である。2020年度はその遅れを取り戻すために、分析に力を入れる。また、得られた分析結果を作成中の手の筋骨格モデルに入力し、関節間応力、代表的な筋の筋力等を、逆動力学で計算する。手指の筋骨格モデルは、解剖学的知見に基づき、筋骨格ソフトウェア(AnyBody Technology社、現有)を用いて作成する。年度後半には、それらの成果を総括し、研究協力者(マンチェスター大、William Sellers教授)とも議論を重ね、霊長類の手の進化にロコモーションとマニピュレーションが果たした役割について考察を行う。さらに、今年度は筋電図計測についても計画に入れたい。これまでに得られたデータの分析結果から、もともと予定していた手法(運動学、圧分布計測)に加え筋電図データが加わればより一層論議が進むのではないかと考えるに至ったためである。申請当初の計画には記載されていないが、筋電図計測を付け加えることも視野に入れて研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ分析補助のアルバイトの雇用がうまく進まなかった(適任者がいなかった)。そのため、計上した予算が未使用となった。また、年度末にはCOVID-19のパンデミックによる出張の規制があり、予定していた旅費を使用できなかった。物品費については、購入物品(カメラ)を他のプロジェクト経費から借用することが可能となり、予定していた台数より少ない台数の購入で事足りた。 アルバイトの雇用については、今年度に予定より時間数を増やして雇用し、2019年度の遅れを取り戻す。旅費と物品費の2019年度残余分については、2019年度に得た途中経過から示唆された筋電図法の必要性について検討を加えるために使用することを計画している。
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