研究課題/領域番号 |
19K22455
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒井 章子 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (30361306)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 送粉 / 細菌叢 / 植物繁殖生態学 / 訪花者 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、ショウガ科ハナミョウガにおいて、花表面の細菌の組成を決める要因を探るために、実験を行った。1)ネットをかけ送粉者を排除、2)紙袋をかけ花序外からの細菌の排除、3)袋をかけず開放、4)古い花の表面細菌を接種、5)4のコントロールとして蒸留水を接種、の5つの処理を施した。それらの開花直後の花に加え、開花前の花について、16S rRNA配列による細菌叢解析を行った。その結果、ほとんどの花には腸内細菌科、シュードモナス科細菌が一定の頻度で見られること、それらは開花前の花では少なく、4)で多く見られた。結実率を3)と比較すると、4)でのみ、有意に低かった。腸内細菌科、シュードモナス科細菌は、植物に対し病原性をもつものを含むことが知られている。古い花に多く見られる細菌は、植物の繁殖に負の影響をもたらしている可能性がある。 つぎに、雌雄異株植物トウダイグサ科アカメガシワの花圏微生物叢を分析した。雌花と雄花で細菌を比較したところ、その組成は大きく異なっていた。雄花ではしばしばアカメガシワ細菌斑点病の病原細菌である腸内細菌科Erwinia mallotivoraと一致する配列が多くみられた。一方、その配列は雌花や健全な葉では稀であった。同じ配列は、雄花を訪れた送粉者からも見つかったことから、Erwinia mallotivoraは雄花で増殖し分散しているのではないかと考えられた。訪花者を介した感染は、他のErwinia細菌でも報告されている。 これらの結果は、花の上の細菌には、植物の適応度に負の影響を与えるものを含むこと、その一部は送粉者によって媒介されることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、特定の病原細菌をターゲットとしていたわけではなかったが、アカメガシワではすでにアカメガシワの病原細菌として記載されている斑点細菌病菌を多くのサンプルで検出することができた。他のErwinia属細菌は蜜腺を通じて植物体に侵入し、花が重要な感染経路となっていることが知られている。アカメガシワでも花が病原細菌の侵入経路となっている可能性が高く、本研究のテーマである送粉のコストを想定したより明瞭に示すことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)アカメガシワについて、雌雄の花の細菌叢を比較した論文、ハナミョウガについては細菌叢と結実率の関係についての論文を執筆する。 2)これまでの研究により、アカメガシワ斑点細菌病病原細菌が、繁殖器官に高密度で存在することが示唆された。しかしながら、本研究で行った細菌叢解析は、16S rRNA V4領域に基づいて行っている。この領域だけで得られる変異は少なく、得られた配列がアカメガシワ斑点細菌病のものだとするには、十分ではない。そこで、雌雄の花や病原細菌が実際に花や送粉者に存在することをさらなる調査によって示す。具体的には、繁殖器官や送粉者の表面に存在する細菌を、選択培地を用いて培養する。得られたコロニーからDNAを抽出し、特異的プライマーを用いてE. mallotivoraである可能性が高いものを選別する。得られたものについて、16S rRNA全長を決定する。そのうちいくつかについては、アカメガシワに摂取して、斑点細菌病の病徴が得られるかどうかを確かめる。 3)アカメガシワ斑点細菌病が植物の適応度に与える影響を調べるため、野外実験を行う。病原細菌を雌雄の花に摂取し、結実率への影響、その後の植物体への感染の有無を追うことで、結実に与える影響と親植物に対する影響双方を評価する。開花直後に花を落下させてしまう雄に対し、結実のために花を保持しなければならない雌では、より高い確率で植物体への感染が起こっている可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大に伴い、予定していた学会参加や海外共同研究者訪問を中止した。
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