送粉は、被子植物が次世代を残すために必須の過程である。自ら移動できない植物は、花蜜や花粉で送粉者を誘引し送粉に利用する。この植物 と送粉者の関係は、異なる生物種が互いに利益を与える相利共生のモデル系として盛んに研究されてきた。しかし、これまでの研究では、送粉 者の訪花が植物に与えるコストにはほとんど目が向けられてこなかった。 送粉者が潜在的にもたらしうる負の影響の一つに、微生物への感染がある。植物の繁殖器官である花は、花粉を運ぶ昆虫などの送粉者を誘引し て花粉の授受を達成するためのさまざまな仕組みを備えている。その結果として、訪花者や空気感染によってもたらされる多数の微生物にも暴露されているはずである。 そこで本研究では、まず、送粉過程において微生物が花から花へ運ばれることを示した。アカメガシワにおいて、野生生物の花と訪花者の微生物叢を調査し、両者に共通の配列が多くみられることを明らかとした。次に、花上には繁殖や生存に負の影響を与える病原微生物が存在し、花から花へ運ばれた場合感染を広げるのか検討した。アカメガシワにおいて、花序からアカメガシワ斑点細菌病の病原細菌を分離した。またこの細菌を噴霧接種したところ、病斑を生じたことから、花器感染することが確かめられた。最後に、微生物が花の寿命の潜在的な制限要因となっているかどうかを実験によって検討した。1日と花寿命の短いハナミョウガでは、古い花の微生物を新しい花に接種したところ、結実率の低下がみられた。このことは、病原性を示さない微生物も植物の繁殖に影響を与え花寿命の制限となっていることを示唆している。以上の結果は、花上の微生物が、送粉のコストとなりうることを示している。
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