研究課題/領域番号 |
19K22459
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
和田 崇之 長崎大学, 熱帯医学研究所, 准教授 (70332450)
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研究分担者 |
西川 禎一 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 教授 (60183539)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 宿主適応 / 定着因子 / 分子進化 |
研究実績の概要 |
多様な動物宿主から定着因子(F4因子)の相同遺伝子を検出し、保有菌株の分離を試みている。まず、野生動物を研究対象とする生態学、保全学、獣医学領域の研究者らと連携を構築し、新鮮な糞試料の収集および分与を受けた。また、いくつかの調査地を対象として生態関係を持つ動物種間の試料採材に関する予備調査を実施した。海外との連携として、台湾における野生動物保全・感染症モニタリング調査に並行して試料の収集保管システムを確立した。さらに、野生動物試料をフィールドから収集し、当該遺伝子を保有する腸内細菌科細菌のスクリーニングをスムーズに行うために、新鮮糞試料と増菌培地による前培養を経た菌液をメタゲノム解析で比較検討し、多様度を損ねずに保存菌液を作成する条件を決定した。 ヒトの下痢症患者から分離され、F4因子を宿主定着因子として保有している腸管接着性大腸菌O169:H41では、本因子における宿主認識の主要タンパク質であるFaeGを2種類保有しているという特徴を持つ(FaeG1およびFaeG2)。本菌から抜き出したF4因子遺伝子群を実験室用大腸菌株に導入して形質転換させ、ヒト腸管上皮細胞との接着を試みた結果、いずれかを欠損させた場合には接着能が損なわれることが確認された。一方、家畜ブタの血清調査では、FaeG1抗体陽性個体が一定頻度存在することが示され、先行研究(健常ブタ糞試料においてF4因子遺伝子陽性が一定数存在する)と一致していることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった多様な宿主を対象とした遺伝子探索研究については、試料収集の立ち上げおよび実際の収集を進めており、リアルタイムPCRによる検出を進めているところである。陽性検体からの菌株分離、配列情報の取得は現時点で十分に進捗しておらず、この点では当初の予定より立ち遅れている。生態学的に相互作用がある2種以上の宿主を対象として糞試料を収集し、両者のF4因子を検出して配列比較を行うことが研究目的上重要となることから、そうした試料群を収集できる調査体制の確立に苦慮した結果であるが、次年度以降に軌道修正を含めて調整していく。 一方で、F4因子を持つ病原性大腸菌のin vitro解析については本研究課題において微生物-宿主間相互作用を裏付ける手法となるものである。感染性微生物(病原性の有無を問わず)が多様な宿主域を維持することは生態学的コストが高いため、何らかの特殊な自然条件が想定できる。本菌の接着能解明により、F4因子が菌体に与えうる幅広く可塑性に富んだ宿主域について新たな知見をもたらし得ることが期待できる。 以上、これらを総合して概ね順調に進展していると自己点検した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、F4因子群の配列情報を網羅的に集積する。野生動物、動物園動物を対象に糞試料を収集し、遺伝子陽性が認められた試料について保有菌株の分離を試みる。COVID-19の流行により、当面は野外調査が困難な状況が懸念されることから、動物園動物を中心とした調査に特に注力することとする。また、塩基配列データベースに登録された既存の配列データを活用することも検討する。さらに、多様度維持を前提とした腸内細菌科の増菌方法についてさらに詳細な検討を加える。 F4因子が植物由来の腸内細菌科細菌からも分離されていることから、動物由来試料以外の調査も予定通り行う。 一方で、ヒト病原性を持つ腸管接着性大腸菌O169:H41をターゲットとして、家畜動物の調査を行う。本菌種の保有するF4因子は、2種類の細胞接着サブユニットを持つことから、ヒト以外の宿主への細胞接着にも関わっている可能性がある。先行的に調査を進めてきたFaeG1抗体陽性検体について、もう一方の接着サブユニットであるFaeG2への抗体反応がどのように検出されるのかを確かめる。また、家畜糞試料のF4因子遺伝子のスクリーニングを継続し、配列データの蓄積と分子進化解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、すでに確保されていた試料の分析に注力し、当初予定していた海外(台湾)および関西地域での現地調査を実施しなかったことと、関連する課題として所属大学における学内競争研究資金の採択を受け、相乗効果によって研究費の支出を効率良く抑えることができたため、次年度使用額が生じた。この残額は、次世代シーケンサー用の試薬類を購入することも検討されたが、年度末からのCOVID-19流行を鑑み、次年度以降の研究進展について未確定要素が大きいと判断し、保留することとした。 次年度では、やはり野外調査が困難な状況が続くことが予想されるため、現存試料を用いた詳細な配列解析に注力することとする。
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